前回は、合意書・誓約書・念書等を公文書とするメリットについて取り上げさせていただきました。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/410
賃貸借契約終了に基づく建物明け渡し請求訴訟を提起する場合に、契約解除後の借り主の建物の使用について賃料相当損害金をあわせて請求しますが、一般的には、この賃料相当損害金は、賃料と同額の金額を請求することが多いです。
一方、賃貸借契約において、賃料相当損害金について賃料額より高い損害金が定められていることもあります。よく見受けられるのが、「賃料相当損害金は賃料の2倍とする。」という記載です。
このような場合に、入居者から、「そのような定めが消費者契約法9条1号あるいは10条に該当し無効であるため賃料と同額が相当である。」などと主張されることがあります。
そこで、賃貸借契約において賃料相当損害金の金額について、賃料額より高い損害金が定められている場合に賃料相当損害金は賃料の2倍の額を請求してもよいのか?ということについて解説していきます。
(結論)
賃料額の2倍とする賃料相当損害金の定めは、消費者契約法9条1号には該当せず、かつ、合理性のあるものであれば、消費者契約法10条にも該当しないため請求することは可能と考えられます。
(解説)
1.消費者契約法9条1項について
建物明け渡し請求訴訟にあわせて請求する賃料相当損害金は、「(賃貸借契約終了に基づく)目的物返還債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求権」であって、「賃貸借契約の解除に基づく損害賠償請求権」ではありません。
そのため、消費者契約法9条1号に規定する「消費者契約の解除に伴う」損害賠償ではないので、この規定の適用外と考えられます。
2.消費者契約法10条について
この点については、個々の事案ごとに「信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害するかどうか」ということについて検討がなされます。その上で、賃料相当損害金を賃料額の2倍の金額とすることについて合理性があると判断されれば無効とはなりません。
裁判例においては、賃料の2倍の賃料相当損害金の定めについては合理性があると認めているものが多いです。
平成20年12月24日に東京地裁で言い渡された判決においても、「賃借人が契約終了と同時に目的物を返還すべき当然の義務を果たさない場合に備えておく必要があるところ、その場合に賃借人が従前の対価等以上の支払をしなければならないという経済的不利益を予定すれば、それは上記義務の履行の誘因となるものであり、しかも賃借人が上記義務を履行すれば不利益は現実化しないのであるから、そのような予定は賃借人の利益を一方的に害するものではなく合理性があるといえる。」として、賃料の倍額の賃料相当損害金の定めについて合理性があることを認めています(東京地裁平成20年12月24日判決)。
次回は敷金・礼金・権利金・保証金の意味合いについてご説明させていただきます。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/shikikin-genjyoukaifuku/435
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