前回は、埼玉司法書士会で建物明け渡し請求の研修講師のレポートを書きました。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/seminar/671
今回は、最近問題となっている空き家問題について取り上げたいと思います。
1.なぜ空き家が増えているのか?
自宅が空き家となるのは、
①買い手や借り手がつかず、売ることも貸すこともできない。
②子供も独立して自分の家を持っているので、実家に住んでいた親が亡くなった後、実家を利用する者がいなくなってしまった。
③高齢に伴い老人ホームなどの施設や子供の家に移った。
といったことから始まります。
そして、こういった場合に、その空き家を簡単に処分できないところが問題なのです。
2.空き家が処分しにくい理由について
(1)家に対して思い入れがある。
長年利用してきた家であればあるほど処分することに慎重になるケースが多いです。
(2)相続が発生した後の家の承継方法を決めておかなかった。
相続が発生すると家は遺産となり共同相続人間の共有となります。このとき、遺言などで相続発生後にその家をどのように承継させるかを決めておかなかったため、共同相続人間で揉めて、遺産分割協議に時間がかかり、その間ずっと空き家であるという場合があります。
なお、遺言で承継する者を決めていても、遺留分を主張してきて遺産分割協議で揉めてしまうケースもあります。
(3)空き家を解体するとその敷地に再建築ができなくなってしまう。
新しく建物を建築するためには、道路に2メートル以上接していなければならないこと(接道要件)が建築基準法で定められています。
現在の空き家を解体してしまうとその接道要件を満たさなくなってしまうような場合には、再建築ができなくなってしまいます。
また、市街化調整区域内において建物を建てられる土地(既存宅地)に建物を再建築する場合には、都道府県知事の許可が必要で、許可されるためには既に建物が建っていることが必要です。
この許可を取らずに解体してしまうと再建築ができない土地となり価値が落ちますので、その許可を取る必要性だったり、タイミングによっては空き家のままにしておかざるを得ない場合があります。
(4)お金がかかる。
建物を解体するには解体費がかかります。
そして、解体後には土地は更地となりますので、建物に課税されていた固定資産税・都市計画税はなくなるものの、住宅用地の課税標準の特例が適用されなくなってしまい土地の固定資産税・都市計画税が高くなってしまうため、結果的に固定資産税が従前より高額になることもあります。
住宅用地の課税標準の特例についてはこちら
空き家のままにしているのはもったいないから、住宅用の家屋を店舗用として貸し出すという利用方法をすると、その建物は住宅用でなくなってしまうため、同様に住宅用地の課税標準の特例が適用されなくなってしまいます。
(5)売ろうとしても良い値段がつかない。
不動産を買ったとの値段と売ろうとしたときの値段が違いすぎて売却を躊躇し、そんな値段なら売らずに持っていようと考える方もいらっしゃいます。
3.空き家にしておくことで生じる問題点、デメリット
空き家は処分しにくいとはいっても、何もしないでそのままにしておくと次のような問題、デメリットが生じます。
(1)空き家を所有している以上、固定資産税・都市計画税が課税される。
(2)管理をしていなかったがために、
・老朽化が進み倒壊のおそれが出て、近隣に危険を感じさせている。
・放火のターゲットになりやすい。
・虫の発生源、動物の住処になっている。
(3)嫌悪施設と評価され隣地の不動産価値が下がる。
4.空き家対策の推進に関する特別措置法により行政ができること
以上のような空き家問題があることから、昨年空き家対策の推進に関する特別措置法が制定され、今年5月26日に完全施行されました。
この法律により、行政は次のようなことを行うことができます。
(1)空き家の実態調査
敷地内への立ち入り、個人情報を収集した所有者の調査をすることができるようになりました。
(2)適正管理をしない所有者への行政指示(助言、指導、勧告)、行政指導(命令)
(3)勧告を受けた場合の空き家について「特定空き家」の指定
「勧告」の行政指示を受けると特定空き家に指定されます。
(4)命令に従わない所有者への罰金、行政代執行
命令に従わない所有者へは50万円以下の罰金が科せられ、行政が所有者の代わりに建物の解体等を行います。その解体費用は所有者に請求します。
5.特定空き家に指定されると
特定空き家等とは次のような空き家です。
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれがある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
具体的には、「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)を参照して下さい。
この特定空き家に指定されると、住宅用地の課税標準の特例が適用されなくなってしまい固定資産税・都市計画税が高くなってしまいます。
また、近隣住民にも知らせるため、市町村ホームページや広報誌などで空き家の場所、所有者の住所と氏名が公表されます。
6.空き家の有効利用のために
このような空き家が問題となっているのは、人口が少なくなっている地方の問題だけではなく、今後は既に余っているのに更に作り続けている都市部にもおいても増えてくると考えられています。
そのため、空き家をそのままにしておくのではなく、今のうちから有効利用できるようにしていかなければなりません。
これまでは、空き家の所有者と空き家を必要としている人が巡り会う機会がなかったのですが、市区町村によっては「空き家バンク」の制度を提供して、不動産会社が取り扱ってくれないような低額の不動産の取引を支援しています。
また、空き家を利用することを前提としてリフォームする場合に補助金を支給してくれる自治体、再建築することを前提として解体費用の補助金を支給してくれる自治体もあるようです。
今のうちから、将来を見込んでどのように利用・処分するか対策を考えていく必要が出てきそうです。
次回は使用しない不動産は放棄することができるか?について取り上げたいと思います。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akiyamondai/684
いつもありがとうございます。