カテゴリー別アーカイブ: 民事信託制度の活用

後継ぎ遺贈とは?

前回は、サブリース契約の期間が満了した場合に、賃貸借契約を終了できるか?ということについて説明させていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/301

今回は、後継ぎ遺贈、そして後継ぎ遺贈に代わる新しい資産承継の形として注目されている受益者連続型信託について取り上げたいと思います。

1.後継ぎ遺贈とは?

後継ぎ遺贈とは、例えば、遺言で「自分が亡くなった後は、自分の全財産を妻に遺贈する。その後、妻が亡くなった後は、妻が相続した自分の全財産は長男に遺贈する。」という内容のものです。

この後継ぎ遺贈を内容とする遺言は、いくつかの考え方がありますが、妻から子への遺贈が、妻の財産処分権を侵害するものとして問題があると考えられております。有効か無効かについて判断した裁判例はありませんが、無効とする考え方が有力のようです。

このような、夫から妻へ、妻から子へあるいは親から子へ、子から孫へといった資産承継は、遺贈によらなくとも次のような手順で民事信託を活用することで行うことができます。これを受益者連続型信託といいます。

2.受益者連続型信託の活用例

賃貸建物を所有する夫が、自分が亡くなった後はその建物を特定の相続人に相続させ、その建物から生じる賃料収入をその相続人のみが受け取れるようにしたい場合を例にします。

① 夫(委託者)が、信頼できる人(受託者)との間で、所有する賃貸建物を信託財産として財産管理を委託し、その賃貸建物から生じる賃料を、夫(受益者)に給付する内容の信託契約をします。

※ 委託者と受益者は同じ人、つまり夫になります。これにより夫は、信託契約後、自己が生存中は自己の賃貸建物から生じる利益(賃料)を自分で受け取ることができます。

② また、信託契約において、「夫が亡くなった後は、妻を第二次受益者とする。妻が亡くなった後は、子を第三次受益者とする。」という内容を定めておくことで、その賃貸建物から生じる賃料収入を特定の者に受け取れるようにすることができます。このことで実質的に後継ぎ遺贈と同様の資産承継を実現することができます。

※ 受益者連続型信託は契約時から30年経過した時点の受益者まで有効な受益者として扱われます。

このように受益者連続型信託を利用することで、相続により妻側への親族に自己の資産が流れることを防ぐことで紛争を未然に回避し、かつ、自己の意思で残される家族の生活保障など自ら望む資産承継を実現することができます。

次回は、借り主が行方不明になった場合はどうしたらいい?について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/310

いつもありがとうございます。

障害を持つご家族のためにやっておいた方がよいこと

前回は建物明け渡しの強制執行について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/76

この記事では、大家さんのご家族の方の中に障害を持つ方がいて、大家さんが亡くなった後に障害を持つ方のお世話を福祉施設に委ねるために、かかる施設料を所有しているアパートの賃料収入をもって充てたいというお悩みを抱えた大家さんがどのようなことをしておいたらよいかということについて取り上げます。

このような場合に適しているのが、民事信託制度を活用した収益物件の管理です。

1.民事信託とは?

ある人(委託者)が、自分が有する一定の財産(信託財産)を別扱いとして、信頼できる人(受託者)に託して名義を移し、この託された人において、その財産を一定の目的に従って管理活用処分して、その運用益を特定の人に(受益者)に給付する制度です。

この制度を、高齢者や障害をもつ人の生活支援のために活用することで、自分の判断能力が低下してしまった場合や自分の亡き後に残された家族の幸せな生活を確保することが可能となります。

2.具体的事案

アパートを所有しているAさんは現在、家賃収入で生活している。Aさんには、Bさんと障害をもつCさんの二人の子供がいる。

Aさんは自分が認知症になり判断能力が低下したり、あるいは亡くなった後、Cさんの世話を福祉施設に委ねるため金銭を確保したいと考えている。そしてその福祉施設料は、現在所有するアパートの家賃収入をもって充てたいと考えているが、仕事をしているBさんにアパートの管理を任せ、Cさんのお世話をしてもらうことができるのか悩んでいる。

3.民事信託制度の活用

Aさんを委託者、Bさんを受託者、Cさんを受益者、司法書士等の専門家をCさんの代理人(受益者代理人)とし、アパートを信託財産として、民事信託契約を行います。

Aさんから委託を受けたBさんは、アパートの家賃収入等の管理を行い、その家賃収入の中からCさんに対し施設料相当の金銭の支払を行います。

Cさんの代理人として、司法書士等の専門家を指定しているため、Cさんが直接Bさんに生活費等の請求をする意思表示ができなくとも、代理人がCさんに代わりBさんに請求して、施設料等の支払いをしておいてくれます。

 

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4.民事信託制度の効果

民事信託制度は、委託者であるAさんの信託契約締結時の意思が、契約後の状況変化(Aさんが認知症になる、Aさんが亡くなる。)に関係なく半永久的に係属します。これを意思凍結機能といいます。

そのため、Aさんの、Cさんを最後まで扶養したいとの意思が、Aさんが認知症になった後、あるいは亡くなった後においても変わることなく活かされます。

民事信託制度は、遺言や成年後見制度とは異なり、大家さんが元気なうちからも利用することもでき、また、大家さんの状況が変化してもなお、民事信託契約の効力は維持しますので、様々な活用方法があります。今後も有益な活用方法を取り上げていきたいと思います。

 

次回は、期間満了による賃貸借契約の終了について取り上げます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/92

 

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