建物明け渡しの強制執行

前回は大家・借り主が亡くなったら、滞納家賃はどうなる?について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/62

建物明け渡しの訴訟手続が終了し、請求認容判決あるいは明け渡しを内容とする和解が成立してもなお、借り主が任意に退去手続を行わない場合、判決正本あるいは和解調書などに執行文を付与し、送達証明書を取得してから建物明け渡しの強制執行手続を行います。

この記事では、強制執行手続の流れと注意点について、解説いたします。

強制執行手続の流れは次のとおりです。

1.強制執行の申立

2.執行官との打ち合わせ

3.明け渡しの催告

4.明け渡しの断行

(解説)

1.強制執行の申立

(1)強制執行の申立先

強制執行の申立は、建物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して申立書を提出して行います。

占有移転禁止の仮処分や訴訟を提起した際の裁判所と必ずしも一致するわけではないのでご注意ください。

(2)強制執行の申立書にかかる費用

各裁判所によって、金額が異なりますが、平均すると、一部屋について借り主一人の明け渡しを求める場合には6万円~8万円程度かかります。

建物や退去を求める人の数によって金額が増額されますので、事前に執行官に問い合わせるとよいでしょう。

(3)強制執行の申立書に添付する書面

①判決正本(執行文付き)、和解調書正本(執行文付き)などの執行力ある債務名義の正本

②送達証明書

③大家さんあるいは借り主が法人である場合は資格証明書

④建物の所在場所の地図

※①と②は還付申請をしておくことで返還されます。

 

2.執行官との打ち合わせ

明け渡しの催告期日あるいは明け渡しの断行日の日程調整、執行補助者(搬出業者、保管業者、解錠技術者等)、入居者の状況によっては警察官、断行の際の証人の確保等の打ち合わせをします。

執行補助者にかかる費用は、搬出する動産の数等によっても変わってきますが、一般的に、1LDKなら30万円程度、3LDKなら40万円から50万円程度かかります。

 

3.明け渡しの催告

執行官は、借り主に対して、建物明け渡しの強制執行の申立がされてから原則2週間以内に、

・「借り主の占有を移転することを禁止すること」

・「催告の日から1か月を経過する日が明け渡しの期限であること」

・「明け渡しの期限までに占有を移転させた場合には、新たな占有者に対して強制執行を行うこと」

・「明け渡しの断行日」

・「借り主に引き渡せなかった動産について売却し処分することがあること」

を内容として、催告します。

この明け渡しの期限と明け渡しの断行期日とは日時が必ずしも一致するとは限りませんのでご注意ください。

この催告がされた後に借り主が違う人に建物を住まわせたりすることがあっても、その者に対しても明け渡しの強制執行を進めていくことになります。

催告期日には、執行官が実際に建物の所在場所に行って催告するので、借り主にプレッシャーを与えることになり、一般的にこの催告から断行期日までの間に借り主が任意に退去することが多いです。

 

4.明け渡しの断行

執行官、執行補助者、証人とともに建物所在地に赴き、建物内から家具等の動産の搬出を行い、借り主を退去させます。

妨害・抵抗がある場合には、施錠を破壊したり、連れ出したりするなどの必要限度で威力を用いて明け渡しを実現します。

 

Q:建物明け渡しの強制執行にあわせて動産執行の申立をしておいた方がよいですか?

A:滞納家賃を回収する見込みのあるような高価な動産がある場合には申し立てた方がよいです。

動産執行とは、借り主が所有する動産を差し押さえて、売却し、その売却代金を回収する手続です。

しかし、居住用の建物の場合、ほとんどの動産が差押え禁止動産と定められております。

具体例を挙げると、衣服、寝具、台所用品、畳、建具、66万円までの現金、タンス、洗濯機、冷蔵庫、 電子レンジ、ラジオ、テレビ(通常のサイズのもの)、掃除機、エアコンなどの動産は差し押さえて売却することはできません。

そのため、骨董品や宝石といった動産がある場合には動産執行の申立をする実益があります。

 

Q:借り主が動産執行で差押えすることのできない動産を残していった場合、どのようになりますか?

A:建物とは独立している物(目的外動産)は、執行官が取り除き、これを借り主やその親族に引き渡すことになります。これができない場合は、執行官により売却されます。

差押え禁止動産となっている物の中には、建物に附属している物(畳、建具など)と、建物とは独立している物(エアコン、冷蔵庫、テレビなど)に分けられます。

建物に附属している物については、もともと大家さんの所有物であることが多いことや、仮に借り主が入居後に付け加えたものであったとしても建物の一部とされ大家さんの物となることが多いため、建物明け渡しの強制執行手続き後に大家さんが処分を検討すればよいことになります。

一方、建物とは独立している物は目的外動産とも呼ばれ、建物明け渡しの強制執行手続の中で、執行官が取り除き、これを借り主やその親族に引き渡すことになります。

この引き渡しができない場合には、次のいずれかの手続により目的外動産を売却することになります。

① 執行官が明け渡し催告の際に目的外動産を確認し、明け渡しの断行期日に売却することを公告した上で明け渡しの断行期日に売却

② 執行官が明け渡しの断行期日に、公告なく即日売却(高価な動産は不可)

③ 執行官が目的外動産を保管し、明け渡しの断行期日から1週間未満の日を売却期日と指定して売却 

※③の場合、目的外動産の保管にかかる保管費用は大家さんの負担になりますので、建物の中で保管する旨の上申をあげておくとよいでしょう。

一般的に、借り主が残していった目的外動産は大家さんが買い取り、処分することになります。

売却代金は執行費用に充当されます。

 

Q:目的外動産の中に借り主以外の動産があった場合はどうしたらよいですか?

A:執行官により売却することができます。

 

次回は、障害をもつご家族のためにやっておいた方がよいことについて取り上げます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/minnjishintaku/85

 

いつもありがとうございます。