動産執行の申立について

前回は連帯保証人に対する請求の範囲について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/228

建物明け渡しの訴訟において、判決ないし和解で終了した場合に、滞納家賃や損害金などの金銭の支払いについての条項が記載されることがあります。

この金銭の支払条項に基づき、借り主から金銭を回収する方法として、給料ないし銀行預金などといった債権を差し押さえる方法がありますが、実際には仕事をしておらず収入がないため、家賃滞納に至ったケースが多いので債権差押の申立をしても回収できる可能性は低いと言えます。

債権差押の申立以外の方法として、借り主が借りていた建物内で所有していた動産を差し押さえて売却しその売却代金を、滞納家賃や損害金に充てるという動産執行の申立という方法があります。

今回は、この動産執行の申立について取り上げていきたいと思います。

結論から言うと、動産執行の申立は、物件内に滞納賃料・損害金に充てるだけの高価な動産がある場合にのみ申立をする実益があります

(解説)

1.動産執行の申立の時期

一般的には、賃料滞納を原因として賃貸借契約の解除を行い、建物明け渡しの訴訟で認容判決あるいは和解成立となった後に、建物明け渡しの強制執行の申立をするのと同時に動産執行の申立を差し押さえるべき物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に申し立てることが多いです。費用は2万円から5万円ほどかかります。

このように同時に申し立てるのは、建物明け渡しの強制執行手続における明け渡しの催告期日に借り主の住所地に行く日に併せて、動産の差し押さえ続き(動産を処分できないようにする手続)をするためです。

2.動産執行の対象動産について

民事執行法131条においては、差押禁止動産を定めています。その一例を挙げると、衣服、寝具、台所用品、畳、建具、66万円までの現金、タンス、洗濯機、冷蔵庫、 電子レンジ、ラジオ、テレビ(通常のサイズのもの)、掃除機、エアコン、位牌などの動産は差し押さえて売却することはできません。

このような差押禁止動産は、建物明け渡しの強制執行手続の目的外動産として売却手続をすることになります。

そのため、動産執行の対象動産としては、マッサージ機、宝石、絵画、ピアノといった価値のある動産でなければなりません

3.差押・売却の方法

動産を差し押さえると、執行官はその動産に「差押物件封印票」により封印したり、「差押物件標目票」を作成して管理します。

差し押さえられた動産は、基本的には債務者である借り主が建物の中で保管することが多いですが、大家さんや倉庫業者などの第三者が保管することも可能です。倉庫業者の費用は大家さん負担になります。

差押後の動産の売却方法には競り売りの方法と入札の方法があります。一般的には、借り主の居室内を売却場として、競り売りの方法で大家さんが買い受けることが多いです。

差押動産の価額は執行官の裁量によってなされますが、市場価格より安い価格で評価されます。

得られた売却代金は大家さんの滞納家賃・損害金に充てられます。

4.まとめ

実際には、借り主が動産執行の対象となるような高価な動産を所有していることは稀ですので、申立をしても執行不能で終了することが多いので、費用対効果を考えて動産執行の申立を検討する必要があるでしょう。

 

Q:借り主が動産執行の対象となるような価値のある動産を所有していることは判明しているのですが、執行官に対する申立費用などで足が出てしまう場合はどうなりますか?

A:差押をすることができません。

このように申立費用を弁済すると剰余を生ずる見込みのないことを無剰余といいますが、この場合は手続を進めることでかえって大家さんの損失になるため、差押をすることが許されないのです。

 

Q:賃貸物件である建物の玄関の外に出ている借り主の動産を差し押さえる場合はどのようにしたらよいですか?

A:動産執行の申立書において「執行の場所」欄に、玄関脇の場所を加えるのを忘れないでください。

 

次回は滞納家賃の時効について取り上げていきます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/247

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