建物明け渡しの強制執行手続の準備について

前回は、占有移転禁止の仮処分の目的と効果について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/karisyobun/28

訴訟手続で建物明け渡し請求が認められ、勝訴判決がなされたり、あるいは、明け渡しを内容とする和解が成立したにもかかわらず、借り主が退去してくれない場合には、強制執行手続に進みます。

この記事では、強制執行手続を行うための事前準備としてどんなことをする必要があるの?について解説致します。

事前準備は次のことをする必要があります。

判決正本・和解調書正本・認諾調書正本・調停調書正本(これらは「債務名義」と呼ばれています。)について執行文の付与

②送達証明書(上記書類が借り主等の相手方に送達されたことを証明する書面です。)の取得

③現況の調査

(解説)

.判決正本・和解調書正本・認諾調書正本・調停調書正本について執行文の付与

執行文とは、判決正本等に書いてある内容が、強制執行手続によって実現できる効力があることを証明する文書です。

執行文付与の申立をして、裁判所書記官が判決正本等にその効力があると認めると、判決正本等の末尾に「執行文」という題名が書かれた書面がホッチキスでとめられます。執行文には、「債権者は、債務者に対し、この債務名義により強制執行することができる。」という内容が書かれています。

執行文は次の手順で付与されます。

(1)和解調書正本・認諾調書正本・調停調書正本の取得

訴訟手続において、判決が言い渡された場合には、判決正本が裁判所から送られてきますが、和解・認諾で終了した場合や、調停事件で調停が成立した場合には、「調書の正本を送達してください」と裁判所に申請しておく必要があります。

申請しなくても、調書の正本を送達してくれる裁判所が多いですが、送達してくれない場合には申請してください。

これらの調書の正本を取得する場合にも、本来書面1枚につき150円の収入印紙の手数料がかかるのですが、最初の一回目であれば正本交付手数料はかかりません。この申請により、相手方にも調書の正本を送達してくれます。なお、送達にかかる郵便切手の料金はかかります。

(2)執行文付与の申立

執行文付与の申立は、訴訟手続、調停手続を行った裁判所の裁判所書記官に対して書面で行います。

申立に際して、判決正本等の書面、手数料(執行文1通につき300円の収入印紙)を添付する必要があります。大家さんが会社の場合には、会社の登記事項証明書も添付しなければなりません。

(3)執行文の付与

申立を受けた裁判所書記官は、提出された判決正本等で強制執行手続を行うことができるかについて判断します。

建物明け渡しの訴訟の判決で、建物の明け渡しについて仮執行宣言(判決の不服申立の期間(被告に対する判決正本送達から2週間以内)が満了せずともすぐに強制執行手続をすることができる旨の裁判)がつくことはあまりありませんので、判決の場合には、被告に対する判決正本送達から2週間が経過して判決が確定していることが必要になる場合がありますのでご注意ください。

なお、和解・認諾・調停の場合には、このような不服申立ということがないのでこの点について考慮する必要はありません。

2.送達証明書の取得

送達証明書とは、判決正本等が相手方である借り主、保証人に届いていることを証明する書面です。

強制執行手続を行う以上、事前に相手方にどのような書面に基づいて強制執行が行われるかを知らせ、防御の機会を与える必要があるため、判決正本等がちゃんと送達されていることを確認する必要があるのです。

送達証明書は、訴訟手続、調停手続を行った裁判所の裁判所書記官に対して書面で交付申請を行います。

申請に際して、手数料(1通につき150円の収入印紙)を添付する必要があります。大家さんが会社の場合には、会社の登記事項証明書も添付しなければなりません。

また、一般的には申請書を2通提出して、うち1通に、「上記のとおり証明する。」などとゴム印が押され、証明者である裁判所書記官の名前と職印が押されて返ってきます。返ってきたものが証明書になります。

3.現況の調査

強制執行手続において、執行官が、借り主が建物を利用していること(借り主による占有)を認定する必要があります。この場合に借り主の利用が認められないと、強制執行手続が執行不能で終了したり、明け渡し期日(断行日)が延期される場合があります。

そのため、執行官は大家さんに借り主がどういった人であるのか?現在どのように建物を利用しているのか?について情報の提供を求めます。

例えば、

・表札は誰名義になっているか?

・電気・ガス・水道のメーターは動いているか?

・郵便受けに郵便はたまっていないか?

・借り主以外に住んでいる人はいないか?

・外観から見た建物の利用状況はどうなっているか?荷物で足の踏み場も無いような状況か?建物は増築等は施されていないか?

などなど。

執行官に、このような情報提供を行えるように準備しておくと、強制執行手続がスムーズに行われやすくなりますので、事前に調査しておくとよいでしょう。

Q:借り主との明け渡しに関する合意を公文書である公正証書によって作成することはできますか?

A:公正証書によって合意書を交わすとしても、建物明け渡しについては、強制執行手続を行うことができませんので作成しない方がよいかと思います。なお、未払賃料等の金銭請求に関する合意の部分については、「債務者が債務を履行しない時は、直ちに強制執行を受けても異義のない事を承諾する」という一文を入れることで、執行文が付与され強制執行手続を行うことができます。

Q:仮執行宣言がついていない判決に執行文の付与を求める場合、判決が確定したことを証明する証明書を取得する必要はありますか?

A:原則必要ありません。

 

次回は家賃滞納が発生した場合の対応について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/53

いつもありがとうございます。