大家・借主が亡くなったら、滞納家賃はどうなる?

前回は、家賃滞納が発生した場合の対応について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/53

この記事では、借り主の家賃が滞納している間に、大家さんが亡くなってしまった場合あるいは借り主が亡くなってしまった場合に、今後の滞納家賃の回収手続はどのようにするべきなのか?について取り上げていきたいと思います。

この点、大家さんあるいは借り主が亡くなる前か後かで場合分けして考えることになります。

大家さんが亡くなってしまった場合は、

・亡くなる前の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

・亡くなった後の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

借り主が亡くなってしまった場合は、

・亡くなる前の滞納家賃は、借り主各相続人の相続分に応じて分割されます。

・亡くなった後の滞納家賃は、借り主の各相続人に対して、全額を請求できます。

(解説)

1.大家さんが亡くなる前の滞納家賃について

滞納家賃請求権は金銭債権であるので、大家さんが亡くなって相続人が複数いる場合には、各相続人の相続分に応じて分けることができます。

そのため、大家さんが亡くなる前の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

※なお、現金については、金銭債権ではなく、物として考えることになりますので、借り主の家賃の滞納がなく、大家さんが受け取っていた家賃を現金で保管していた場合には、その現金は相続人全員の共有財産となり、相続人全員は相続分に応じて権利を取得しているだけなので、相続分に応じた額を当然に取得するわけではないのでご注意ください。

2.大家さんが亡くなった後の滞納家賃について

建物明け渡し請求権は、相続人間で分けることの出来ない債権であることから、各相続人は共同賃貸人となります。

その結果、かつては、大家さんが亡くなった後の滞納家賃請求権についても、各相続人間で分けることの出来ない金銭債権と考えられていました。

しかし、平成17年9月8日の最高裁判所の判決で、大家さんが亡くなった後の滞納家賃請求権は、大家さんの遺産ではなく、各相続人の共有財産と解し、各相続人がその持分に応じて賃料債権を取得することになりました。

そのため、亡くなった後の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

3.借り主が亡くなる前の滞納家賃について

滞納家賃債務は金銭債務であるので、借り主が亡くなって相続人が複数いる場合には、各相続人の相続分に応じて分けることができます。

そのため、借り主が亡くなる前の滞納家賃は、借り主各相続人の相続分に応じて分割されます。

4.借り主が亡くなった後の滞納家賃について

建物明け渡し義務は、相続人間で分けることの出来ない義務であることから、各相続人は共同賃借人となります。

その結果、借り主の相続人全員は、相続分に応じて建物の一部分をそれぞれ明け渡すということはできず、全員が建物全体を明け渡す義務を負っていることになります。

借り主の相続人全員が共同賃借人である以上、借り主の相続人全員は共同して建物全体を利用することができ、その賃料も相続人全員が全額を支払わなければなりません。

つまり、借り主(Aさん)が亡くなって、相続人が奥さん(Bさん)、子(Cさん)、子(Dさん)であるなら、大家さんは、Bさん、Cさん、Dさんのいずれの方に対しても家賃全額を請求することができます。

そのため、貸し主が亡くなった後の滞納家賃は、借り主の各相続人に対して、全額を請求できます。

(まとめ)

 

B-01

Q:大家である父が亡くなる前に賃貸借契約を解除していたため、賃料相当損害金が発生しているのですが、これはどのような取り扱いになりますか?

A:大家さんが亡くなる前の賃料相当損害金は、滞納家賃と同様に、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

その他のパターンについては以下のとおりですので参考にしてください。

・大家さんが亡くなった後の賃料相当損害金については、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

・借り主が亡くなった日までの賃料相当損害金は、相続開始の日までの借り主各相続人の相続分に応じて分割されます。

・借り主が亡くなった日の翌日から賃料相当損害金は、借り主の各相続人に対して、全額を請求できます。

※借り主の場合は亡くなった日とその翌日では取り扱いが違うので注意してください。

(まとめ)

 

B-02

Q:大家さんが亡くなった後、建物明け渡し請求は相続人全員で行う必要がありますか?

A:建物明け渡し請求は、分けることのできない債権ですので、相続人各自が行うことができます。

もっとも相続人全員で共同して行っていただいても大丈夫です。

ただし、建物明け渡し請求の前提となる契約解除の内容証明郵便については、各相続人のうち、持分価額の過半数を有している相続人から行うことが必要になりますので注意してください!

心配であれば、相続人全員の連名で内容証明郵便を出しておけばベストです。

なお、相続人全員で建物明け渡し請求を行う場合の、請求の趣旨の記載例を挙げておきます。

「1.被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

2.被告は、原告Aに対し、金★万★★★★円及び平成★★年★★月★★日から前項の建物明け渡し済みまで1か月★万円の割合による金員を支払え

3.被告は、原告Bに対し、金★万★★★★円及び平成★★年★★月★★日から前項の建物明け渡し済みまで1か月★万円の割合による金員を支払え

4.訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行を求める。」

などと記載することになります(大家さんの相続人が原告Aと原告Bの2人の場合)。

 

Q:借り主が亡くなった場合、契約解除の内容証明郵便は誰に送ればよいですか?

A:借り主の相続人全員に対して送る必要があります。

 

次回は、建物明け渡しの強制執行について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/76

いつもありがとうございます。