家賃滞納の時効は何年?起算点と時効完成を防ぐ方法【司法書士解説】

滞納家賃を放置していませんか?最短で5年で請求できなくなります。

借主の家賃滞納が続いている場合に、一定期間その滞納状態を放置すると時効にかかって請求することができなくなってしまいます。

この記事では、

  • 家賃の時効はいつから何年間なのか?
  • 時効の完成を防ぐためにはどうしたらよいのか?

について取り上げていきたいと思います。

 

1 家賃の時効はいつから何年間なのか

(1)時効期間の開始時期(起算点)と時効期間について

家賃の時効期間の開始時期は、次のいずれかのうちどちらか早いほうで、どちらに該当するかによって時効期間が変わってきます。

ア 賃貸人が家賃を「請求できる」ことを知ったときから5年間(主観的起算点)

イ 家賃を「請求できる」ときから10年(客観的起算点)

 

この「請求できる」とは、

権利を行使することについて、法律上の障害がなくなったとき

を指します。

 

「法律上の障害」とは、わかりやすい例としては、「期限」が挙げられます。

家賃の支払いについて、期限が設定されていれば、請求しても期限(法律上の障害)を理由に賃借人は請求を拒めます。

 

(2)開始時期の具体例

賃料の支払時期は賃貸借契約で、

「毎月末日限り翌月分払い」

と定めていることが多いです。

 

例えば、このような定めがある場合は、令和8年9月分の賃料の支払時期は、

令和8年8月31日まで

となります。

8月31日24時までは、賃借人において「期限があります」と請求を拒める(法律上の障害がある)ので、その日時を経過した9月1日が家賃を請求できるときとなります。

 

一般的に賃貸人は賃料の支払時期を知っています。

その場合、アに該当し、

「賃貸人が家賃を請求できることを知ったとき」

と、

「家賃を請求できるとき」

は一致し、令和8年9月分の賃料の時効期間の開始時期は

令和8年9月1日

となります。

 

賃貸借契約について特に賃料支払時期を明確に取り決めていなかった場合は、「当月分を当月末日払い」となることが法律で定められていますので、翌月1日が起算点になります。

 

賃貸借契約当時の賃貸人が亡くなって相続が生じるなど、何らかの事情があって現在の賃貸人が家賃を請求することができることを知らないときは、イの「家賃を請求することができるとき」として令和8年9月1日が時効期間の開始時期となります。

 

(3)時効の意思表示(援用)

時効による債権消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生じるものではありません。

時効の援用(時効の意思表示)がされて初めて確定的に生じます。

 

2 時効の完成を防ぐには

権利の上に眠る者を法は保護しません。だから消滅時効が認められているのです。

そこで、債権者である賃貸人は、時効を止めるために権利の上に眠っていないことを示す必要があります。

 

時効の完成を防ぐ方法には、主に次の方法があります。

  • 訴訟提起・支払督促・調停・強制執行等の申立
  • 仮差押え・仮処分の申立、催告
  • 協議を行う旨の合意
  • 債務の承認

(1)訴訟提起・支払督促・調停・強制執行等の申立について

これらの手続は、「時効の完成猶予」事由といいます。

これらの手続を開始して終了するまでは、本来の時効期間の経過では時効が完成しなくなります。

さらにこの手続が終了して権利が確定(確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定)したときは、終了したときから、後述する時効の更新の効果が生じ、その時効期間も10年に延びます

 

(2)仮差押え・仮処分の申立、催告について

これらの手続も「時効の完成猶予」事由です。

これらの手続が終了した時から6か月を経過するまでの間は、本来の時効期間の経過では時効が完成しなくなります。

仮差押えによる時効の完成猶予の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続します。被保全債権(賃料債権)について訴訟で勝訴判決が確定しても、仮差押えによる時効の完成猶予の効力がこれに吸収されて消滅しません。

「催告」は、内容証明郵便などで請求したときから6か月間しか時効期間の完成を止められません。その間に支払がされたり、債務の承認などがなければ、あらためて訴訟提起など別の時効完成猶予事由を行って完成を止めなければなりません。

 

(3)協議を行う旨の合意について

「協議による時効の完成猶予」の制度は、令和2年4月1日から改正民法(債権法改正)により施行されました。

これは、債権者(賃貸人)と債務者(賃借人)の間で、債権(賃料)の有無について協議する旨の合意が書面や電磁的記録などでされた場合は、一定期間、時効の完成が猶予されるものです。

前述した(2)の「催告」をしても6か月以内に解決しない場合は、時効を止めるために訴訟等を提起しなければなりませんでした。

そこで、当事者間で「話し合いを継続しましょう」という合意ができた場合には、一定期間時効の完成(成立)をストップさせることができるようにし、裁判外での柔軟で円満な紛争解決を促す目的でこの制度が作られました。

この合意ができた場合は、

  • 合意があった時から1年間を経過した時
  • 1年未満の協議期間を定めたときは、その期間を経過した時
  • 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時

まで、時効完成が猶予されます。

猶予期間中に再度協議の合意をすれば猶予期間は伸長されますが、元々の時効完成期間から5年を超えることはできません

 

(4)債務の承認について

「債務の承認」とは、賃借人が賃料債務の存在を認める意思表示です。

借主に念書等で滞納家賃の支払い義務があることを認めてもらうことなどが挙げられます。

これは、「時効の更新」といい、それまでの時効期間がリセットされます。

 

(Q&A)

Q1:滞納家賃の一部支払があった場合、時効は更新される?

A:更新されたとは言いがたいです。

一度発生した一つの債権を時期をずらして分割して支払うのであれば、一部支払であっても全体について承認したものとして時効期間が更新されますが、家賃債権は毎月定期的に発生するものであることから、一部支払により先に発生している古い滞納家賃に充当されるだけでその余の滞納家賃については、承認による更新の効力が生じているとまでは言えません。

もっとも、借り主が全体の滞納家賃を認めた上で、一部支払をしたのであれば、残りの滞納家賃についても承認されたものとして時効が更新されます。

Q:借り主が行方不明のため、保証人に滞納家賃を承認してもらいました。この場合、借り主に対する時効期間も更新しているのでしょうか?

A:借り主に対する時効は更新していません。

保証人が承認したのは滞納家賃の保証債務について承認したのであり、保証人は借り主の滞納家賃債務自体を承認することはできないことから借り主に対する時効は更新されていません。

このまま、借り主に対する滞納家賃債務が消滅時効にかかってしまった場合、保証人が途中で保証債務について承認したとしても、主たる滞納家賃債務の消滅と同時に保証債務も消滅してしまうため保証人にも請求できなくなってしまいます。

このような場合は、訴訟手続に進むのがよいと考えられます。