前回は、滞納家賃の時効について説明させていただきました。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/247
今回は敷金の滞納家賃等への充当について取り上げさせていただきます。
敷金とは、不動産の賃貸借契約において、借り主の債務を担保するために大家さんに交付される金銭のことです。
そのため、借り主に家賃の滞納があるときは、この敷金を充当することができます。
一方で、借り主に賃貸借契約から生じた債務がない場合には、賃貸借契約が終了し建物を明け渡したときにはその敷金を返還しなければなりません。
この敷金の充当と敷金の返還についての注意点を説明させていただきます。
1.敷金の充当について
(1)充当できる借り主の債務について
滞納家賃、賃料相当損害金、保管義務違反による修理費用、原状回復費用などと充当することができます。
敷金は、原状回復費用への充当で問題になるケースが多いです。原状回復費用の問題については別の記事にてあらためて取り上げさせていただきます。
(2)充当の時期
①賃貸借契約存続中の場合(主に滞納家賃債務への充当)
大家さんは、賃貸借契約中に家賃の滞納があれば、契約が終了前であっても充当することができます。
一方、借り主からは、滞納家賃と敷金を充当することを主張することはできません。
(大判昭和5.3.10)
もっとも、大家さんとしては、充当しなければならないわけではないので、滞納家賃から敷金を控除しないで催告することも可能です(最判45・9・18)
②賃貸借契約終了時の場合
賃貸借契約終了後、建物の明け渡し完了の時までに生じた債務に当然に充当されます。
(3)充当するための意思表示の要否
敷金は借り主の債務に当然に充当されるため、大家さんから借り主に対して、「滞納家賃と敷金を相殺する。」といったような意思表示をする必要がありません。
後述しますが、借り主の敷金返還請求権は、建物明け渡しによって発生する権利なので、その時点において借り主に債務があれば、敷金はその金額の範囲で当然に充当されて消滅するため、借り主から相殺の主張がされる余地がないことになります。
2.敷金の返還について
(1)返還時期について
大家さんは、賃貸借契約が終了して借り主が建物を明け渡したときに、滞納家賃等の債務一切を敷金から控除した残額について借り主に返還しなければなりません。(最判昭和48・2・2)
そのため、建物明け渡し時が借り主の敷金返還請求権の発生時期になります。
このことから、借り主が、「敷金を返さない限り建物を明け渡さない。」という主張をすることはできないということになり、借り主としては敷金返還請求をしたいのであれば先に建物を明け渡す必要が出てきます。
(2)敷金返還請求にかかる利息・損害金
敷金返還債務については、特約の無い限り利息は付きません。
敷金返還債務の履行遅滞の起算日は、期限の到来したことを知った日である「建物明け渡しのあった日」となりその翌日から損害金が発生することになることが多いです。
Q:賃貸借契約終了前に借り主の債権者から敷金について差押がされました。借り主は家賃の滞納があるのですが預かっている敷金と充当してもよいのでしょうか?
A:充当することは可能です。
差押の対象となっている敷金は建物明け渡し時に発生する返還請求権であるため、借り主の全ての債務を控除した残額が差押の対象となります。
したがって、借り主の債権者より先に敷金から滞納家賃債権を回収することができます。
次回は、オーナーチェンジがあった場合の敷金、滞納家賃について取り上げさせていただきます。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/261
いつもありがとうございます。