前回は、法人成りして法人税の課税方式に代えて節税を考えましょうというテーマでブログを書きました。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/fudousankeiei/995
今回は前回の続きで、相続対策と事業承継の点について取り上げたいと思います。
1.所得の分散による相続対策
相続税は、所有者の相続が始まった時点での遺産が多ければ多いほど多額になります。
相続税対策を考えるなら、生前に相続時に遺産を多く残さないようにすることが必要です。
例えば、不動産事業を個人事業から法人成りして、自らを法人の代表者として、家族をその法人の役員や従業員として、役員報酬あるいは給与等の形で不動産事業の所得を分配します。
その結果、元々、不動産の所有者だった個人に相続が生じた場合には、相続時における遺産は少なくなっていることから、相続税もそれにあわせて少なくなります。
2.法人成りすることで経費化しやすくなる。
家族を法人の役員や従業員にしたとして、その者らに対して支払う役員報酬や給与は、経費として認められている点も、法人税の節税の観点から有効です(額が多すぎる場合は認められない場合もあります。)。
給与を受け取る者にとっても、給与所得者控除が認められている点(給与等の収入金額から一定額を控除した部分について課税がされる。)で、メリットがあります。
さらに、個人事業では認められない退職金についても、法人成りして退職金として支払うなら経費として認められます(受け取る者にとっても、一定額までは退職所得控除が認められるため、所得税を抑えることができるというメリットがあります。)。
3.基礎控除額の減額
税制改正により、2015年1月から遺産にかかる基礎控除額が引き下げられました。
従前は、
基礎控除額「5,000万円」+「1,000万円」×法定相続人の数
という計算式によって基礎控除額が求められたのに対して、
現在は、
基礎控除額「3,000万円」+「600万円」×法定相続人の数
という計算式で基礎控除額が算出されるようになりました。
例えば、ご主人が亡くなり、法定相続人が奥様、子供二人のケースでいえば、
従前は、5,000万円+(1,000万円×3)=8,000万円まで基礎控除額が認められたのに対して、
現在は、3,000万円+(600万円×3)=4,800万円までが基礎控除として認められる金額となります。
このように基礎控除額を超え、相続税が課税される範囲が広がったことからも、生前中に相続時に遺産を多く残さないようにすることが大切です。
4.遺産分割協議の長期化回避と事業承継の容易性
不動産を個人名義で所有したまま、所有者がお亡くなりになり相続が開始すると、相続人間で「遺産をどのように分割するか。」という遺産分割協議をしなければなりません。
預金などと違い、不動産は簡単に分けることができないので遺産分割協議がまとまらず、家裁に遺産分割調停を申し立てるケースも少なくありません。
しかし、相続税の申告や納付は、相続があったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
遺産分割協議がまとまっていないことを理由に相続税を納めないなら、延滞税を支払わなければならなくなります。
遺産分割協議がまとまっていないまま申告する場合には、「配偶者の税額の軽減」「小規模宅地等の特例」の適用を受けることができません(遺産分割がまとまった段階で、更正の請求を行うことで適用される場合があります。)。
このように不動産を個人で所有したままにしておいたことが原因で、相続人間でもめてしまったり、支払わなくてよい延滞税を支払う必要が生じてしまったり、受けることができた特例が受けられなくなったりするなど誰も得をしないケースが生じる場合があります。
この点、例えば、不動産を株式会社名義にしておけば、元々の所有者に相続が生じても、不動産の所有名義が変わるわけではないので、相続人のうちの誰が新たな不動産の所有者となるかとの点では問題が生じないことになります。
遺産についても、元々の所有者が持っていた株式会社の株式となり、不動産に比べて分割しやすくなるので、株式会社の事業承継は容易なものとなります。
いつもありがとうございます。