前回は障害を持つご家族のためにやっておいた方がよいことについて取り上げました。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/minnjishintaku/85
借り主に建物の明け渡しを求める場合、賃貸借契約が終了していることが必須になります。
借り主が賃料滞納を繰り返すことから、契約を解除して明け渡しを求めることが多いと思いますが、このことも解除に基づく明け渡しになります(賃料滞納はあくまでも解除のための理由になります。)。
賃貸借契約が終了する場面としては、
1.賃貸借契約の期間満了
2.賃貸借契約の解除
3.賃貸借契約の解約申し入れ
の3つに分けることができます。
この記事では、1の賃貸借契約の期間満了を理由に明け渡しを求める場合について解説していきます。
1.賃貸借契約の期間
賃貸借契約の入居期間は契約書において定めている期間になります。期間に上限はありませんが、期間が1年未満の場合には、期間を定めなかったものとされます。
一般的にアパートの一室の賃貸借契約であれば入居期間は2年とすることが多いと思います。そして、契約期間満了前に賃貸借契約の更新の合意をして継続して借り続けることが多いと思います(このことを合意更新といいます。)。
更新の合意をすることなく、借り主が継続して建物を使用し大家さんがそのことについて特段何の異議も述べない場合にも、従前の賃貸借契約と同じ内容(入居期間は定めがないものとなります。)で契約が更新されたとみなされます(このことを法定更新といいます。)。
2.期間満了時に明け渡しを求める場合
この当初の賃貸借契約あるいは合意更新後の賃貸借契約において定めた入居期間が満了するときに借り主に退去を求めることができるかというと、これがそう簡単にはいきません。
入居期間満了時に大家さんが明け渡しを求める場合には、次の点に注意が必要です。
(1)期間満了の1年前から6か月前までの間に、大家さんが借り主に更新拒絶の通知をすること
(2)更新拒絶の通知をしたときから期間満了までの間に、更新拒絶をすることについて正当事由があること
この、更新拒絶をすることについて正当事由があるかという点が一番のポイントですが、その判断要素としては、
・大家さん(賃貸人)が建物の使用を必要とする事情があるか
・建物の賃貸借に関する従前の事情(例:権利金等の支払の有無、契約期間の長さ、賃料額の相当性、信頼関係の状況など)
・建物の現況(例:老朽化し立て替えの必要性があるなど)
・明け渡しの条件として立ち退き料を支払う、あるいは、別な建物に入居させる旨の申し出をしている
などが挙げられます。これらを総合的に判断して、借り主が賃貸借契約を更新して建物を利用し続けること以上に、大家さん側に明け渡す必要性があることを認めてもらわなければなりません。
提案する立ち退き料は、事案ごとにケースバイケースです。借り主の生活の拠点を動かすことを求める以上、借家権価額、引っ越し費用、住居補償などの費用を負担することになり、金額としては高額になるケースが多いです。
この正当性の判断については、裁判所は正当性を認めてくれず、借り主に有利な判断をすることが多いので、当事者間の合意で解決できるなら話し合いで解決した方がよいでしょう。
また、このような事情があり、かつ更新拒絶の通知も出していたとしても、賃貸借期間終了後に借り主が住み続けていることについて何の異議も述べないと法定更新されてしまいますので、必ず異議を述べるようにしてください!
3.だから、定期借家契約!
(1)定期借家契約とは
期間の定めのある建物の賃貸借契約をする場合において、公正証書等の書面により、契約の更新がないこと内容とする賃貸借契約を交わすことです。
大家さんはこの契約を交わすときには必ずその賃貸借契約は更新がなく、期間満了により終了することを説明した書面を交付しなければなりません。この説明が記載された書面は賃貸借契約書とは別の書面であることが必要です。
また、この説明書を渡したことで説明義務を果たしたということはできず、きちんと借り主に理解してもらうことが重要ですので注意してください。
入居期間満了後に、借り主が建物に同じ条件で入居することを希望する場合には、大家さんとの間で協議の上、再契約することは可能です。
賃貸期間が1年以上の定期借家契約の場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に、大家さんが借り主に期間満了により賃貸借契約が終了する旨の通知をしておく必要があります。これを怠ると、定期借家契約は無効になり、普通の賃貸借契約が締結されたことになります。
(2)定期借家契約のメリット
賃貸借契約の更新がないので、期間満了により、確実に借り主を退去させることができます。
したがって、将来的に建物の老朽化に伴う立て替えを検討している場合に、期間満了に伴い借り主に退去を求める場合や、近隣の入居者に迷惑をかける借り主を期間満了時に退去を求める場合に有効です。
(3)定期借家契約のデメリット
デメリットとしては、
①再度、契約書を交わし、定期賃貸借契約の事前説明を行う必要があること
②長期間の入居を希望されている方、転勤により住まいを探しているがどの程度の期間赴任するか分からないという方から敬遠される恐れ
が挙げられます。
定期賃貸借契約は期間満了により終了するため、同じ人に同じ条件で入居してもらう(つまり再契約すること)ためには、改めて、定期賃貸借契約書を交わし、事前の説明が必要になります。
従前の賃貸借契約は終了しているため、保証契約についても同様に保証人と再契約しなければなりません。
また、入居期間が決まっているということで長期間の入居を希望されている方、転勤により住まいを探しているがどの程度の期間赴任するか分からないという方から敬遠される恐れがありますので、空室リスクを防ぐため、借り主にとって入居期間以外のメリットを提案して行く必要があります。
Q: 建物が老朽化したため立て替えをするため明け渡しを求めたが、裁判所が明け渡しを認めてくれない場合に、地震等によって建物が倒壊して借り主やその他の人に怪我をさせたり、持ち物を壊す結果になったらその責任はどうなるのでしょうか?
A:大家さんがその損害を負担する可能性があります。
次回は、家賃滞納による賃貸借契約の解除について取り上げていきたいと思います。
https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/137
いつもありがとうございます。