借家の立ち退き料の相場は?

前回は収益物件の実質利回りを計算方法について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/fudousantoushi/532

最近は、家賃滞納による解除以外の原因での建物明け渡しのご相談をよく受けるようになりました。

特に期間満了解約の申し入れを原因とする事案が多いです。

いずれの事案も賃貸人側に明け渡す必要性(正当事由)が必要になるほか、その正当事由を補完するために一定の立ち退き料の提供が必要になる場合があります。

今回はその借家の立ち退き料についてご説明したいと思います。

1.正当事由の存在が前提であること

立ち退き料の提供は、それのみでは正当事由の根拠となるものではなく、他の諸般の事情と綜合考慮され、相互に補完しあって正当事由の判断の基礎となるものとされておりますので、正当事由の存在が前提となります。

2.立ち退き料の提供の性質

立ち退き料は、

① 移転を伴うことで賃借人が支払わなければならなくなる費用(引っ越し費用、新しい賃貸物件を借り入れるために必要となる敷金・礼金、旧賃料との差額など)の補償

② 移転することで失われる賃借人の利益(間取り、通学通勤条件等の悪化、営業上の損失など)の補償

などの性質があると考えられています。

3.立ち退き料の相場は?

提案する立ち退き料は、事案ごとにケースバイケースですので、計算方法というのはありません。

例えば、居宅と店舗では、店舗の方が営業補償の観点を考慮する必要があるので、明け渡しを求めることで賃借人にとって負担が大きいのは店舗になりますので、その結果、立ち退き料も店舗の方が高額になります。

また、居宅の立ち退きの場合であっても長期間一定地域において生活した基盤を失わせることになる場合には、精神的慰謝料的な補償を必要とする可能性も出てきます。

そのため、具体的には個々の事案に応じて、立ち退きをすることでどのような損失があるかを考えて算出するしかありませんが、一般的には賃料の6か月から1年分の価格と言われています。

4.失う借家権の補償について

借地権は譲渡性があることから、借地権の取引においては、借地権価格(借地権の財産的価値・経済的利益の価額を示すもの)を用いることがあり、立ち退き料の算定の基礎として考慮されることが多いです。

一方、借家権の場合にも「借家権価格」というものがありますが、借家権は借地権と異なり譲渡性に乏しく、取引の対象となることが少ないことから、実際の裁判においても借家権価格の鑑定をすることは少ないです。

また、賃貸人側に賃貸借契約を終了させるのに正当事由がある場合において、実際の立ち退きに伴う費用等に比べて、借家権価格を基礎に算定された立ち退き料の方が高額になるような場合に、立ち退き料を借家権価格によって算定しないとする判例もあることから、あくまでも借家権価格は立ち退き料の算定のための参考資料の一つにしかならず、立ち退き料によって借家権価額が補償されるわけではないと考えられそうです。

 

次回は、保証会社との間の保証委託契約書の契約条項の注意点について取り上げます。

その記事はこちら→ https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/544

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