カテゴリー別アーカイブ: 家賃滞納

オーナーチェンジがあった場合の敷金、滞納家賃

前回は、敷金の滞納家賃等への充当についてご説明させていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/254

今回は、賃貸借契約中に建物の所有者が変わった事で賃貸人に変動があった場合(オーナーチェンジ)に、預かっている敷金や滞納家賃はどのように承継するかについてご説明させていただきます。

建物の所有者が変わると、これまで所有者であった大家さん(旧賃貸人)の立場は、新しい所有者(新賃貸人)に承継されます。

そして、敷金、滞納家賃については次のような取り扱いをする必要があります。

 旧賃貸人に差し入れられていた敷金は、旧賃貸人に対する借り主の債務があればその債務に充当され、その残額が新賃貸人に承継されます。

② 旧賃貸人が借り主に対して有する滞納家賃債権は、新賃貸人に対して当然には承継しませんので、承継するのであれば債権譲渡の手続が必要になります。

 

1.承継する敷金について

借り主が旧賃貸人に差し入れていた敷金が、オーナーチェンジがあったときに借り主の債務と充当されるのは、旧賃貸人と借り主との間の賃貸借契約が終了し、その清算の過程の中で借り主の債務(滞納家賃等)を担保(敷金)により回収させる必要があるためです。

充当後の敷金残額が新賃貸人に引き継がれるのは、敷金が賃貸人のための担保として密接に結びつくものであることから、賃貸人の地位の移転とともに担保も移転を伴うべきであるためです。

そのため、賃貸借契約終了後明け渡し前に、オーナーチェンジがあった場合には、新賃貸人のための担保としての実益がないので、旧賃貸人と新賃貸人の合意のみでは敷金が承継しませんので注意が必要です。

 

2.旧賃貸人の滞納家賃債権について

オーナーチェンジがあると、旧賃貸人と借り主の賃貸借契約は終了します。旧賃貸人と借り主との関係で生じた債権債務関係は賃貸借契約終了後も継続するため、旧賃貸人は所有者でなくなったとしても滞納家賃請求をすることができます。

未払家賃債権は敷金とは異なり、新所有者に承継されないので、承継するには債権譲渡手続を行う必要が出てきます。

 

Q:借り主側に変動があった場合(賃借人の変更)があった場合、旧賃借人が差し入れていた敷金はどうなりますか?

A:旧賃借人が差し入れていた敷金は新賃借人に承継されません。

賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転するには大家さんの同意が必要になります。大家さんが同意した結果、賃借権の移転があると旧賃借人との賃貸借契約は終了します。そしてその清算の中で敷金に関しても債務に充当したり、返還したりすることになります。

承継するには、旧賃借人の債務を充当した敷金残額について、旧賃借人と新賃借人との間で債権譲渡手続をするか、旧賃借人が先に交付している敷金をもって、新賃借人の賃貸借契約における担保とする合意をする必要があります。

次回は、原状回復費用についてご説明させていただきます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/266

 

いつもありがとうございます。

敷金の滞納家賃等への充当について

前回は、滞納家賃の時効について説明させていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/247

今回は敷金の滞納家賃等への充当について取り上げさせていただきます。

敷金とは、不動産の賃貸借契約において、借り主の債務を担保するために大家さんに交付される金銭のことです。

そのため、借り主に家賃の滞納があるときは、この敷金を充当することができます

一方で、借り主に賃貸借契約から生じた債務がない場合には、賃貸借契約が終了し建物を明け渡したときにはその敷金を返還しなければなりません

この敷金の充当と敷金の返還についての注意点を説明させていただきます。

 

1.敷金の充当について

(1)充当できる借り主の債務について

滞納家賃、賃料相当損害金、保管義務違反による修理費用、原状回復費用などと充当することができます。

敷金は、原状回復費用への充当で問題になるケースが多いです。原状回復費用の問題については別の記事にてあらためて取り上げさせていただきます。

(2)充当の時期

①賃貸借契約存続中の場合(主に滞納家賃債務への充当)

大家さんは、賃貸借契約中に家賃の滞納があれば、契約が終了前であっても充当することができます

一方、借り主からは、滞納家賃と敷金を充当することを主張することはできません

(大判昭和5.3.10)

もっとも、大家さんとしては、充当しなければならないわけではないので、滞納家賃から敷金を控除しないで催告することも可能です(最判45・9・18)

②賃貸借契約終了時の場合

賃貸借契約終了後、建物の明け渡し完了の時までに生じた債務に当然に充当されます。

(3)充当するための意思表示の要否

敷金は借り主の債務に当然に充当されるため、大家さんから借り主に対して、「滞納家賃と敷金を相殺する。」といったような意思表示をする必要がありません

後述しますが、借り主の敷金返還請求権は、建物明け渡しによって発生する権利なので、その時点において借り主に債務があれば、敷金はその金額の範囲で当然に充当されて消滅するため、借り主から相殺の主張がされる余地がないことになります。

 

2.敷金の返還について

(1)返還時期について

大家さんは、賃貸借契約が終了して借り主が建物を明け渡したときに、滞納家賃等の債務一切を敷金から控除した残額について借り主に返還しなければなりません。(最判昭和48・2・2)

そのため、建物明け渡し時が借り主の敷金返還請求権の発生時期になります

このことから、借り主が、「敷金を返さない限り建物を明け渡さない。」という主張をすることはできないということになり、借り主としては敷金返還請求をしたいのであれば先に建物を明け渡す必要が出てきます。

(2)敷金返還請求にかかる利息・損害金

敷金返還債務については、特約の無い限り利息は付きません。

敷金返還債務の履行遅滞の起算日は、期限の到来したことを知った日である「建物明け渡しのあった日」となりその翌日から損害金が発生することになることが多いです。

Q:賃貸借契約終了前に借り主の債権者から敷金について差押がされました。借り主は家賃の滞納があるのですが預かっている敷金と充当してもよいのでしょうか?

A:充当することは可能です。

差押の対象となっている敷金は建物明け渡し時に発生する返還請求権であるため、借り主の全ての債務を控除した残額が差押の対象となります。

したがって、借り主の債権者より先に敷金から滞納家賃債権を回収することができます。

 

次回は、オーナーチェンジがあった場合の敷金、滞納家賃について取り上げさせていただきます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/261

いつもありがとうございます。

滞納家賃の時効について

前回は、動産執行の申し立てについてご説明させていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/243

借り主の家賃滞納が続いている場合に、その滞納状態を放置しておくと消滅時効にかかってしまい、滞納した家賃を請求することができなくなってしまいます。

この記事では、家賃の時効はいつから何年間なのか?時効を中断するためにはどうしたらよいのか?について取り上げていきたいと思います。

家賃の時効は、賃料支払時期から5年間です。

時効期間を中断させるためには、次の方法を採る必要があります。

① 訴訟、調停等を起こす。

② 差押あるいは仮差押の申し立てをする。

③ 承認(借り主に念書等で滞納家賃の支払い義務があることを認めてもらう。)

(解説)

1.時効期間について

(1)時効期間の開始時期(起算点)について

消滅時効は、権利を行使することについて、法律上の障害がなくなったときが起算点となります。

例えば、賃料の支払時期を「当月分を当月末日払い」と定めている場合などは、8月であれば8月31日24時00分までは期限という法律上の障害がついているので時効期間は開始していません。この場合は9月1日午前0時00分が到来することで時効期間が開始します。したがって、9月1日が時効の起算点となります(8月31日24時00分と9月1日午前0時00分は実質的には同じですが、厳密には違います。)。

「翌月分を当月末日払い」と定めているような場合は、8月分の家賃であれば、8月1日午前0時00分が起算点となります。

なお、賃貸借契約について特に賃料支払時期を明確に取り決めていなかった場合は、「当月分を当月末日払い」となることが法律で定められていますので、翌月1日が起算点になります。

(2)時効期間について

家賃は毎月定期的に発生しますので、通常の時効期間である10年間より短い5年間になります。

家賃は各月ごとに起算点が異なりますので、時効期間満了日は別々になります。

 

2.時効の中断について

時効を中断、つまりこれまで経過した時効期間をゼロに戻すためには、前述したとおり、

① 訴訟、調停等を起こす。

② 差押あるいは仮差押の申し立てをする。

③ 承認(借り主に念書等で滞納家賃の支払い義務があることを認めてもらう。)

という方法を採らないといけません。

家賃滞納者に、支払を督促するために内容証明郵便を送る大家さんがいらっしゃいますが、その督促だけでは時効は止まりませんその内容証明郵便が到達してから6か月以内に訴訟、調停等の申し立てをすることで、内容証明郵便が到着したときを起算点として時効の効力が生じます

そのため、内容証明郵便を出したからといって安心はできないのです。

 

Q:借り主に滞納している家賃の支払いを認めてもらうために念書を書いてもらうことを要求したのですが、書いてもらうことができません。ただし、滞納している家賃の一部を支払ってくれました。それでもまだ滞納家賃は残っています。この場合、残っている家賃については承認して時効期間は中断されたのでしょうか?

A:中断されたとは言いがたいです。

一度発生した一つの債権を時期をずらして分割して支払うのであれば、一部支払であっても全体について承認したものとして時効が中断されますが、家賃債権は毎月定期的に発生するものであることから、一部支払により先に発生している古い滞納家賃に充当されるだけでその余の滞納家賃については、承認による中断の効力が生じているとまでは言えません。

もっとも、借り主が全体の滞納家賃を認めた上で、一部支払をしたのであれば、残りの滞納家賃についても承認されたものとして時効が中断します。

Q:借り主が行方不明のため、保証人に滞納家賃を承認してもらいました。この場合、借り主に対する時効期間も中断しているのでしょうか?

A:借り主に対する時効は中断していません。

保証人が承認したのは滞納家賃の保証債務について承認したのであり、保証人は借り主の滞納家賃債務自体を承認することはできないことから借り主に対する時効は中断となっていません。

このまま、借り主に対する滞納家賃債務が消滅時効にかかってしまった場合、保証人が途中で保証債務について承認したとしても、主たる滞納家賃債務の消滅と同時に保証債務も消滅してしまうため保証人にも請求できなくなってしまいます。

このような場合は、訴訟手続に進むのがよいと考えられます。

 

次回は、敷金の滞納家賃への充当について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/254

いつもありがとうございます。

連帯保証人に対する請求の範囲

前回は、連帯保証人に対する大家さんの対応についてご説明させていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/157

今回は、連帯保証人に請求できる借り主の債務の範囲について取り上げていきます。

賃貸借契約書に、「連帯保証人は、借り主と連帯して、本契約から生じる借り主の債務を負担するものとする。」との条項が書いてあることから、大家さんとしては借り主に対する債務であれば何でも連帯保証人に請求してよいと考えることがあるかと思います。

しかし、その性質上、連帯保証人に請求できないものもありますので、この記事では連帯保証人に対する請求ができないものについて取り上げていきます。

連帯保証人に対して請求できないものとしては次の例が挙げられます。

1.建物明け渡し請求

2.借り主に対して明け渡しの強制執行手続をするのが容易な場合に、あえてそれをせず、増大させた賃料相当損害金請求

(解説)

1.大家さんが連帯保証人に請求することができるもの

連帯保証人に請求できるものの例としては次のものが挙げられます。

1.賃料請求

2.遅延損害金

3.賃料相当損害金請求

4.借り主が建物を壊したり、傷つけたりした事についての損害賠償請求

5.原状回復義務の履行請求

 

2.大家さんが連帯保証人に請求することができないもの

(1)建物明け渡し請求

建物の明け渡しは、建物を実際に使用している借り主だけが義務を負っているため、連帯保証人が代わりに明け渡すことはできません(大阪地判昭和51年3月12日)。

仮に契約書の中に、「借り主が建物内に残置した動産があるときはその処分、建物明け渡しに関する一切の権限を連帯保証人に委任する。」という条項があったとしても、その合意自体が問題になる可能性があります。この条項を根拠に、連帯保証人の承諾を得て借り主の残置動産を処分したり、建物明け渡しを実行してしまうと、借り主から損害賠償請求を受ける可能性があります。

(2)借り主に対して明け渡しの強制執行手続をするのが容易な場合に、あえてそれをせず、増大させた賃料相当損害金請求

連帯保証人は、基本的には、借り主の家賃滞納が長期間にわたり、滞納額が高額になったとしても借り主の債務について予期できる範囲内の債務として滞納家賃の支払い義務を免れることはできません。

しかし、連帯保証人としては、大家さんに滞納家賃を弁済した後は、借り主に対して代わりに払った滞納家賃額を請求することになります。そうであるなら、連帯保証人としては、滞納額が高額になる前に大家さんに早く借り主との間の賃貸借契約を終了してもらいたいと考えます(連帯保証人は賃貸借契約自体を終了させる権利がありません。)。

このような場合、連帯保証人は、借り主の滞納状況を知った時点で将来の保証債務に対する責任を負わない旨の意思表示(保証契約解除の意思表示)をすることで、連帯保証人の責任を免れる場合があります(大判昭和8年4月6日判決、東京地裁昭和51年7月16日判決)。

そのため、借り主に対して明け渡しの強制執行ができるのにもかかわらずそれをせず、賃料相当損害金を増大させた上で、連帯保証人に請求する場合には、信義誠実の原則に反して許されません。

 

次回は動産執行の申立について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/243

いつもありがとうございます。

連帯保証人に対する大家さんの対応

前回は、解約申し入れによる賃貸借契約の終了について説明させていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/152

今回は連帯保証人に対する大家さんの対応について取り上げていきます。

一般的に賃貸借契約を締結するときには、「連帯保証人は、借り主と連帯して、本契約から生じる借り主の債務を負担するものとする。」との条項が書いてあるかと思います。そして、その賃貸借契約書に大家さん、借り主、連帯保証人が署名押印することで賃貸借契約及び保証契約が成立します。

基本的に契約が成立した後に生じる賃料は借り主に請求をしますが、借り主がその賃料を支払わなかった場合、連帯保証人に請求することになります。

しかし、賃貸借契約の期間が満了し、契約が更新された場合には、連帯保証人に請求することができるのか?ということが問題になることがあります。

この記事では、どのタイミングで連帯保証人に請求すべきか?賃貸借契約更新後は連帯保証人との関係は維持されるのか?といった連帯保証人に対する大家さんの対応について説明させていただきます。

1.賃料滞納があった場合

借り主が賃料を滞納していることが発覚した場合、大家さんとしては次の流れで対応するのが良いでしょう。

(1)賃料滞納が発生してから1週間以内

電話などで借り主本人に繰り返し催促します。

(2)賃料滞納から1週間程度経過

連帯保証人に報告して、連帯保証人を通じて支払を催促します。

(3)賃料滞納から2週間程度経過

借り主に書面で催告したり、自宅に直接訪問して催告するようにします。

(4)賃料滞納から3週間経過した場合

連帯保証人に滞納家賃を請求します。

(5)賃料滞納から1か月経過した場合

借り主、連帯保証人に対して内容証明郵便を送付して請求します。

2.賃貸借契約更新後の連帯保証人について

賃貸借契約において定めた賃貸借期間が満了し、再度同じ条件で賃貸借契約を合意更新、あるいは法定更新した場合において、当初の原賃貸借契約における連帯保証人との関係について説明します。

合意更新の際に、改めて連帯保証人の意思確認をして、保証書などの書面を差し入れさせたり、連帯保証人の署名押印のある更新契約書を交わす場合には、その連帯保証人との関係は維持されるので特段問題はありません。

問題は、合意更新の際に連帯保証人の意思確認をしない場合法定更新の場合です。

(1)合意更新の際に連帯保証人の意思確認をしない場合

判例(最判平成9年11月13日)においては、「賃貸借の保証における当事者の通常の合理的意思からして、保証人が更新後の賃貸借から生じる賃借人の債務についても保証の責めを負う。」として、合意更新後の滞納家賃について連帯保証人に支払義務があることを認めています。

(2)法定更新の場合

一般的に、賃貸借契約の期間が満了した後、賃貸人(大家さん)としては更新を拒絶することは難しいことから、連帯保証人としても賃貸借契約が継続することは予期すべき事であり、当初の契約において、「更新後の責任は負わない。」などの取り決めがない限り、連帯保証人は法定更新後の滞納家賃についても責任を負います(大判昭和8年4月6日)。

以上のことから、原則としては、連帯保証人は更新後の滞納家賃についても支払義務を負います。もっとも、借り主が家賃を滞納させている状態で契約を更新し、そのことを連帯保証人に伝えていなかったような場合は、連帯保証人に対する請求が信義則に反して許されないとされる場合もあるようです。

 

Q:連帯保証人に滞納家賃を請求したところ、「借り主にまず請求してください。」と言われましたが、借り主に請求してからでないと、連帯保証人に対して請求できないのでしょうか?

A:請求できます。

単なる保証契約であれば、保証人としては「借り主に請求してください(「催告の抗弁権」といいます。)」とか、「借り主は価値ある財産を持っているから、それを差し押さえて処分して、その代金を滞納家賃に充ててください(「検索の抗弁権」といいます。)」などと反論することができます。

しかし、連帯保証であるなら、そういった反論をすることはできないので、すぐに連帯保証人に請求することは可能です。

 

次回は、連帯保証人に対する請求の範囲について取り上げます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/228

いつもありがとうございます。

大家・借主が亡くなったら、滞納家賃はどうなる?

前回は、家賃滞納が発生した場合の対応について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/53

この記事では、借り主の家賃が滞納している間に、大家さんが亡くなってしまった場合あるいは借り主が亡くなってしまった場合に、今後の滞納家賃の回収手続はどのようにするべきなのか?について取り上げていきたいと思います。

この点、大家さんあるいは借り主が亡くなる前か後かで場合分けして考えることになります。

大家さんが亡くなってしまった場合は、

・亡くなる前の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

・亡くなった後の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

借り主が亡くなってしまった場合は、

・亡くなる前の滞納家賃は、借り主各相続人の相続分に応じて分割されます。

・亡くなった後の滞納家賃は、借り主の各相続人に対して、全額を請求できます。

(解説)

1.大家さんが亡くなる前の滞納家賃について

滞納家賃請求権は金銭債権であるので、大家さんが亡くなって相続人が複数いる場合には、各相続人の相続分に応じて分けることができます。

そのため、大家さんが亡くなる前の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

※なお、現金については、金銭債権ではなく、物として考えることになりますので、借り主の家賃の滞納がなく、大家さんが受け取っていた家賃を現金で保管していた場合には、その現金は相続人全員の共有財産となり、相続人全員は相続分に応じて権利を取得しているだけなので、相続分に応じた額を当然に取得するわけではないのでご注意ください。

2.大家さんが亡くなった後の滞納家賃について

建物明け渡し請求権は、相続人間で分けることの出来ない債権であることから、各相続人は共同賃貸人となります。

その結果、かつては、大家さんが亡くなった後の滞納家賃請求権についても、各相続人間で分けることの出来ない金銭債権と考えられていました。

しかし、平成17年9月8日の最高裁判所の判決で、大家さんが亡くなった後の滞納家賃請求権は、大家さんの遺産ではなく、各相続人の共有財産と解し、各相続人がその持分に応じて賃料債権を取得することになりました。

そのため、亡くなった後の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

3.借り主が亡くなる前の滞納家賃について

滞納家賃債務は金銭債務であるので、借り主が亡くなって相続人が複数いる場合には、各相続人の相続分に応じて分けることができます。

そのため、借り主が亡くなる前の滞納家賃は、借り主各相続人の相続分に応じて分割されます。

4.借り主が亡くなった後の滞納家賃について

建物明け渡し義務は、相続人間で分けることの出来ない義務であることから、各相続人は共同賃借人となります。

その結果、借り主の相続人全員は、相続分に応じて建物の一部分をそれぞれ明け渡すということはできず、全員が建物全体を明け渡す義務を負っていることになります。

借り主の相続人全員が共同賃借人である以上、借り主の相続人全員は共同して建物全体を利用することができ、その賃料も相続人全員が全額を支払わなければなりません。

つまり、借り主(Aさん)が亡くなって、相続人が奥さん(Bさん)、子(Cさん)、子(Dさん)であるなら、大家さんは、Bさん、Cさん、Dさんのいずれの方に対しても家賃全額を請求することができます。

そのため、貸し主が亡くなった後の滞納家賃は、借り主の各相続人に対して、全額を請求できます。

(まとめ)

 

B-01

Q:大家である父が亡くなる前に賃貸借契約を解除していたため、賃料相当損害金が発生しているのですが、これはどのような取り扱いになりますか?

A:大家さんが亡くなる前の賃料相当損害金は、滞納家賃と同様に、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

その他のパターンについては以下のとおりですので参考にしてください。

・大家さんが亡くなった後の賃料相当損害金については、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

・借り主が亡くなった日までの賃料相当損害金は、相続開始の日までの借り主各相続人の相続分に応じて分割されます。

・借り主が亡くなった日の翌日から賃料相当損害金は、借り主の各相続人に対して、全額を請求できます。

※借り主の場合は亡くなった日とその翌日では取り扱いが違うので注意してください。

(まとめ)

 

B-02

Q:大家さんが亡くなった後、建物明け渡し請求は相続人全員で行う必要がありますか?

A:建物明け渡し請求は、分けることのできない債権ですので、相続人各自が行うことができます。

もっとも相続人全員で共同して行っていただいても大丈夫です。

ただし、建物明け渡し請求の前提となる契約解除の内容証明郵便については、各相続人のうち、持分価額の過半数を有している相続人から行うことが必要になりますので注意してください!

心配であれば、相続人全員の連名で内容証明郵便を出しておけばベストです。

なお、相続人全員で建物明け渡し請求を行う場合の、請求の趣旨の記載例を挙げておきます。

「1.被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

2.被告は、原告Aに対し、金★万★★★★円及び平成★★年★★月★★日から前項の建物明け渡し済みまで1か月★万円の割合による金員を支払え

3.被告は、原告Bに対し、金★万★★★★円及び平成★★年★★月★★日から前項の建物明け渡し済みまで1か月★万円の割合による金員を支払え

4.訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行を求める。」

などと記載することになります(大家さんの相続人が原告Aと原告Bの2人の場合)。

 

Q:借り主が亡くなった場合、契約解除の内容証明郵便は誰に送ればよいですか?

A:借り主の相続人全員に対して送る必要があります。

 

次回は、建物明け渡しの強制執行について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/76

いつもありがとうございます。

家賃滞納が発生した場合の対応について

前回は建物明け渡しの強制執行手続の準備について取り上げました。

その記事→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/36

大家さんは、借り主が家賃の支払いが遅れた場合に、速やかに家賃の支払いを催促することが多いと思います。

この記事では、家賃の滞納について催促する場合に大家さんが注意すべき事について取り上げます。

催促を行う場合に注意すべき行為の一例を挙げると、

・鍵の無断交換、荷物の無断搬出をしないこと

・催促の際に暴力的な態度、乱暴な言葉を使わないこと

・早朝や深夜などの時間帯に催促しないこと

・張り紙、立て看板等をたてて催促しないこと

・不必要に勤務先や保証人ではない親族へ催促しないこと

・多人数で、借り主や保証人の家に押しかけないこと

などです。

(解説)

1.鍵の無断交換、荷物の無断搬出をしないこと

日本の法律においては、権利者の自力救済を認めていません。仮に自力救済をしてしまった場合、その行為は法律に反する行為になってしまうため様々なペナルティを課せられることになってしまいます。

自分の所有する建物であったとしても、その建物を利用する権利は借り主にあるので、鍵の無断交換や、荷物の無断搬出を行うと、住居侵入や器物損壊といった刑事上の責任を負うことになることのほか、民事上においても損害賠償請求をされる可能性があります。

また、そのような行為を管理会社の方が行った場合には、その管理会社は法律違反行為をする会社と知らしめられ社会的評価を下げる結果につながります。

2.催促の際に暴力的な態度、乱暴な言葉を使わないこと

大家さんには家賃を回収する権利があります。しかし、この権利行使を楯になんでもやってよいかというとそういうことはありません。

家賃の支払い催促において借り主にプレッシャーを与えることは時には必要ですが、催促の際に暴力的な態度、乱暴な言葉を使うなど度が過ぎると恐喝罪となって刑事上の責任を追うことになります

そのような行為をして成立させた合意は、借り主の意思に基づくものではないとして合意が取り消される可能性もあります。

3.早朝や深夜などの時間帯に催促しないこと

一般的に、早朝や深夜は借り主は建物内で睡眠を取っていることが多いと考えられ、必要性も無くそのような時間帯に催促に行くことは、いくら家賃の回収という権利行使であっても平穏な生活を妨げる行為と評価される可能性があります。

4.張り紙、立て看板等をたてて催促しないこと

張り紙や立て看板をたてて催促することは、借り主以外の者に借り主が家賃を滞納していることを知らしめる結果となり、借り主の名誉を傷つける行為と評価される可能性があります。

5.不必要に勤務先や保証人ではない親族へ催促しないこと

催告をする方法について勤務先に催告する以外に執るべき手段があるなど、勤務先に催促する必要性も高くない場合に、借り主が勤めている勤務先に家賃滞納の事実を伝え間接的に催告することは、借り主以外の者に借り主が家賃を滞納していることを知らしめる結果となり、借り主の勤務先内での評価が下がるなど、借り主の名誉を傷つける行為と評価される可能性があります。

6.多人数で、借り主や保証人の家に押しかけないこと

多人数で家賃の支払いの催促をすることは、借り主にとって過度なプレッシャーを与えることになります。

そのような行為をして成立させた合意は、借り主の意思に基づくものではないとして合意が取り消される可能性もあります。

 

以上のようなことをすると、建物明け渡し請求の訴訟の中で、家賃滞納している借り主に交渉道具を与え、場合によっては契約解除が認められなくなる可能性も生じてきます。大家さんとしては法律の手続に従って家賃を回収する必要があるので、その方法が法律違反にならないようにしなければなりません。

そのため、その手段が法律に反していないか?社会一般的に妥当と言えるものかを意識して催告するように努めなければなりません。

Q:家賃の滞納があったので早急に口頭で催告はしたのですが、借り主は滞納している家賃をいっこうに払おうとしません。法律に反せず、妥当な方法で再度催告してみようと思いますが、どのようにしたらよいですか?

A:催告は口頭だけでなく書面でしていただいても構いません。また、催促して無視される場合に放っておくと許されていると考え始めるので、多少「しつこいな。」と思われるくらいの頻度で催促してください。

また、催告した記録は残しておいてください。催促の適正さを裏付ける証拠となります。

何度か催告しても応じない場合は内容証明郵便による方法で催促すると、大家さんの本気度を感じ、連絡をしてくる場合もあります。

いつもありがとうございます。

次回は、大家・借主が亡くなったら滞納家賃はどうなる?について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/62