連帯保証人に対する請求の範囲

前回は、連帯保証人に対する大家さんの対応についてご説明させていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/157

今回は、連帯保証人に請求できる借り主の債務の範囲について取り上げていきます。

賃貸借契約書に、「連帯保証人は、借り主と連帯して、本契約から生じる借り主の債務を負担するものとする。」との条項が書いてあることから、大家さんとしては借り主に対する債務であれば何でも連帯保証人に請求してよいと考えることがあるかと思います。

しかし、その性質上、連帯保証人に請求できないものもありますので、この記事では連帯保証人に対する請求ができないものについて取り上げていきます。

連帯保証人に対して請求できないものとしては次の例が挙げられます。

1.建物明け渡し請求

2.借り主に対して明け渡しの強制執行手続をするのが容易な場合に、あえてそれをせず、増大させた賃料相当損害金請求

(解説)

1.大家さんが連帯保証人に請求することができるもの

連帯保証人に請求できるものの例としては次のものが挙げられます。

1.賃料請求

2.遅延損害金

3.賃料相当損害金請求

4.借り主が建物を壊したり、傷つけたりした事についての損害賠償請求

5.原状回復義務の履行請求

 

2.大家さんが連帯保証人に請求することができないもの

(1)建物明け渡し請求

建物の明け渡しは、建物を実際に使用している借り主だけが義務を負っているため、連帯保証人が代わりに明け渡すことはできません(大阪地判昭和51年3月12日)。

仮に契約書の中に、「借り主が建物内に残置した動産があるときはその処分、建物明け渡しに関する一切の権限を連帯保証人に委任する。」という条項があったとしても、その合意自体が問題になる可能性があります。この条項を根拠に、連帯保証人の承諾を得て借り主の残置動産を処分したり、建物明け渡しを実行してしまうと、借り主から損害賠償請求を受ける可能性があります。

(2)借り主に対して明け渡しの強制執行手続をするのが容易な場合に、あえてそれをせず、増大させた賃料相当損害金請求

連帯保証人は、基本的には、借り主の家賃滞納が長期間にわたり、滞納額が高額になったとしても借り主の債務について予期できる範囲内の債務として滞納家賃の支払い義務を免れることはできません。

しかし、連帯保証人としては、大家さんに滞納家賃を弁済した後は、借り主に対して代わりに払った滞納家賃額を請求することになります。そうであるなら、連帯保証人としては、滞納額が高額になる前に大家さんに早く借り主との間の賃貸借契約を終了してもらいたいと考えます(連帯保証人は賃貸借契約自体を終了させる権利がありません。)。

このような場合、連帯保証人は、借り主の滞納状況を知った時点で将来の保証債務に対する責任を負わない旨の意思表示(保証契約解除の意思表示)をすることで、連帯保証人の責任を免れる場合があります(大判昭和8年4月6日判決、東京地裁昭和51年7月16日判決)。

そのため、借り主に対して明け渡しの強制執行ができるのにもかかわらずそれをせず、賃料相当損害金を増大させた上で、連帯保証人に請求する場合には、信義誠実の原則に反して許されません。

 

次回は動産執行の申立について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/243

いつもありがとうございます。