期間満了による賃貸借契約の終了

前回は障害を持つご家族のためにやっておいた方がよいことについて取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/minnjishintaku/85

借り主に建物の明け渡しを求める場合、賃貸借契約が終了していることが必須になります。

借り主が賃料滞納を繰り返すことから、契約を解除して明け渡しを求めることが多いと思いますが、このことも解除に基づく明け渡しになります(賃料滞納はあくまでも解除のための理由になります。)。

賃貸借契約が終了する場面としては、

1.賃貸借契約の期間満了

2.賃貸借契約の解除

3.賃貸借契約の解約申し入れ

の3つに分けることができます。

この記事では、1の賃貸借契約の期間満了を理由に明け渡しを求める場合について解説していきます。

1.賃貸借契約の期間

賃貸借契約の入居期間は契約書において定めている期間になります。期間に上限はありませんが、期間が1年未満の場合には、期間を定めなかったものとされます。

一般的にアパートの一室の賃貸借契約であれば入居期間は2年とすることが多いと思います。そして、契約期間満了前に賃貸借契約の更新の合意をして継続して借り続けることが多いと思います(このことを合意更新といいます。)。

更新の合意をすることなく、借り主が継続して建物を使用し大家さんがそのことについて特段何の異議も述べない場合にも、従前の賃貸借契約と同じ内容(入居期間は定めがないものとなります。)で契約が更新されたとみなされます(このことを法定更新といいます。)。

2.期間満了時に明け渡しを求める場合

この当初の賃貸借契約あるいは合意更新後の賃貸借契約において定めた入居期間が満了するときに借り主に退去を求めることができるかというと、これがそう簡単にはいきません。

入居期間満了時に大家さんが明け渡しを求める場合には、次の点に注意が必要です。

(1)期間満了の1年前から6か月前までの間に、大家さんが借り主に更新拒絶の通知をすること

(2)更新拒絶の通知をしたときから期間満了までの間に、更新拒絶をすることについて正当事由があること

この、更新拒絶をすることについて正当事由があるかという点が一番のポイントですが、その判断要素としては、

・大家さん(賃貸人)が建物の使用を必要とする事情があるか

・建物の賃貸借に関する従前の事情(例:権利金等の支払の有無、契約期間の長さ、賃料額の相当性、信頼関係の状況など)

・建物の現況(例:老朽化し立て替えの必要性があるなど)

・明け渡しの条件として立ち退き料を支払う、あるいは、別な建物に入居させる旨の申し出をしている

などが挙げられます。これらを総合的に判断して、借り主が賃貸借契約を更新して建物を利用し続けること以上に、大家さん側に明け渡す必要性があることを認めてもらわなければなりません。

提案する立ち退き料は、事案ごとにケースバイケースです。借り主の生活の拠点を動かすことを求める以上、借家権価額、引っ越し費用、住居補償などの費用を負担することになり、金額としては高額になるケースが多いです。

この正当性の判断については、裁判所は正当性を認めてくれず、借り主に有利な判断をすることが多いので、当事者間の合意で解決できるなら話し合いで解決した方がよいでしょう。

また、このような事情があり、かつ更新拒絶の通知も出していたとしても、賃貸借期間終了後に借り主が住み続けていることについて何の異議も述べないと法定更新されてしまいますので、必ず異議を述べるようにしてください!

3.だから、定期借家契約!

(1)定期借家契約とは

期間の定めのある建物の賃貸借契約をする場合において、公正証書等の書面により、契約の更新がないこと内容とする賃貸借契約を交わすことです。

大家さんはこの契約を交わすときには必ずその賃貸借契約は更新がなく、期間満了により終了することを説明した書面を交付しなければなりません。この説明が記載された書面は賃貸借契約書とは別の書面であることが必要です。

また、この説明書を渡したことで説明義務を果たしたということはできず、きちんと借り主に理解してもらうことが重要ですので注意してください。

入居期間満了後に、借り主が建物に同じ条件で入居することを希望する場合には、大家さんとの間で協議の上、再契約することは可能です。

賃貸期間が1年以上の定期借家契約の場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に、大家さんが借り主に期間満了により賃貸借契約が終了する旨の通知をしておく必要があります。これを怠ると、定期借家契約は無効になり、普通の賃貸借契約が締結されたことになります。

(2)定期借家契約のメリット

賃貸借契約の更新がないので、期間満了により、確実に借り主を退去させることができます。

したがって、将来的に建物の老朽化に伴う立て替えを検討している場合に、期間満了に伴い借り主に退去を求める場合や、近隣の入居者に迷惑をかける借り主を期間満了時に退去を求める場合に有効です。

(3)定期借家契約のデメリット

デメリットとしては、

①再度、契約書を交わし、定期賃貸借契約の事前説明を行う必要があること

②長期間の入居を希望されている方、転勤により住まいを探しているがどの程度の期間赴任するか分からないという方から敬遠される恐れ

が挙げられます。

定期賃貸借契約は期間満了により終了するため、同じ人に同じ条件で入居してもらう(つまり再契約すること)ためには、改めて、定期賃貸借契約書を交わし、事前の説明が必要になります。

従前の賃貸借契約は終了しているため、保証契約についても同様に保証人と再契約しなければなりません。

また、入居期間が決まっているということで長期間の入居を希望されている方、転勤により住まいを探しているがどの程度の期間赴任するか分からないという方から敬遠される恐れがありますので、空室リスクを防ぐため、借り主にとって入居期間以外のメリットを提案して行く必要があります。

 

Q: 建物が老朽化したため立て替えをするため明け渡しを求めたが、裁判所が明け渡しを認めてくれない場合に、地震等によって建物が倒壊して借り主やその他の人に怪我をさせたり、持ち物を壊す結果になったらその責任はどうなるのでしょうか?

A:大家さんがその損害を負担する可能性があります。

 

次回は、家賃滞納による賃貸借契約の解除について取り上げていきたいと思います。

https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/137

いつもありがとうございます。

障害を持つご家族のためにやっておいた方がよいこと

前回は建物明け渡しの強制執行について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/76

この記事では、大家さんのご家族の方の中に障害を持つ方がいて、大家さんが亡くなった後に障害を持つ方のお世話を福祉施設に委ねるために、かかる施設料を所有しているアパートの賃料収入をもって充てたいというお悩みを抱えた大家さんがどのようなことをしておいたらよいかということについて取り上げます。

このような場合に適しているのが、民事信託制度を活用した収益物件の管理です。

1.民事信託とは?

ある人(委託者)が、自分が有する一定の財産(信託財産)を別扱いとして、信頼できる人(受託者)に託して名義を移し、この託された人において、その財産を一定の目的に従って管理活用処分して、その運用益を特定の人に(受益者)に給付する制度です。

この制度を、高齢者や障害をもつ人の生活支援のために活用することで、自分の判断能力が低下してしまった場合や自分の亡き後に残された家族の幸せな生活を確保することが可能となります。

2.具体的事案

アパートを所有しているAさんは現在、家賃収入で生活している。Aさんには、Bさんと障害をもつCさんの二人の子供がいる。

Aさんは自分が認知症になり判断能力が低下したり、あるいは亡くなった後、Cさんの世話を福祉施設に委ねるため金銭を確保したいと考えている。そしてその福祉施設料は、現在所有するアパートの家賃収入をもって充てたいと考えているが、仕事をしているBさんにアパートの管理を任せ、Cさんのお世話をしてもらうことができるのか悩んでいる。

3.民事信託制度の活用

Aさんを委託者、Bさんを受託者、Cさんを受益者、司法書士等の専門家をCさんの代理人(受益者代理人)とし、アパートを信託財産として、民事信託契約を行います。

Aさんから委託を受けたBさんは、アパートの家賃収入等の管理を行い、その家賃収入の中からCさんに対し施設料相当の金銭の支払を行います。

Cさんの代理人として、司法書士等の専門家を指定しているため、Cさんが直接Bさんに生活費等の請求をする意思表示ができなくとも、代理人がCさんに代わりBさんに請求して、施設料等の支払いをしておいてくれます。

 

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4.民事信託制度の効果

民事信託制度は、委託者であるAさんの信託契約締結時の意思が、契約後の状況変化(Aさんが認知症になる、Aさんが亡くなる。)に関係なく半永久的に係属します。これを意思凍結機能といいます。

そのため、Aさんの、Cさんを最後まで扶養したいとの意思が、Aさんが認知症になった後、あるいは亡くなった後においても変わることなく活かされます。

民事信託制度は、遺言や成年後見制度とは異なり、大家さんが元気なうちからも利用することもでき、また、大家さんの状況が変化してもなお、民事信託契約の効力は維持しますので、様々な活用方法があります。今後も有益な活用方法を取り上げていきたいと思います。

 

次回は、期間満了による賃貸借契約の終了について取り上げます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/92

 

いつもありがとうございます。

建物明け渡しの強制執行

前回は大家・借り主が亡くなったら、滞納家賃はどうなる?について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/62

建物明け渡しの訴訟手続が終了し、請求認容判決あるいは明け渡しを内容とする和解が成立してもなお、借り主が任意に退去手続を行わない場合、判決正本あるいは和解調書などに執行文を付与し、送達証明書を取得してから建物明け渡しの強制執行手続を行います。

この記事では、強制執行手続の流れと注意点について、解説いたします。

強制執行手続の流れは次のとおりです。

1.強制執行の申立

2.執行官との打ち合わせ

3.明け渡しの催告

4.明け渡しの断行

(解説)

1.強制執行の申立

(1)強制執行の申立先

強制執行の申立は、建物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して申立書を提出して行います。

占有移転禁止の仮処分や訴訟を提起した際の裁判所と必ずしも一致するわけではないのでご注意ください。

(2)強制執行の申立書にかかる費用

各裁判所によって、金額が異なりますが、平均すると、一部屋について借り主一人の明け渡しを求める場合には6万円~8万円程度かかります。

建物や退去を求める人の数によって金額が増額されますので、事前に執行官に問い合わせるとよいでしょう。

(3)強制執行の申立書に添付する書面

①判決正本(執行文付き)、和解調書正本(執行文付き)などの執行力ある債務名義の正本

②送達証明書

③大家さんあるいは借り主が法人である場合は資格証明書

④建物の所在場所の地図

※①と②は還付申請をしておくことで返還されます。

 

2.執行官との打ち合わせ

明け渡しの催告期日あるいは明け渡しの断行日の日程調整、執行補助者(搬出業者、保管業者、解錠技術者等)、入居者の状況によっては警察官、断行の際の証人の確保等の打ち合わせをします。

執行補助者にかかる費用は、搬出する動産の数等によっても変わってきますが、一般的に、1LDKなら30万円程度、3LDKなら40万円から50万円程度かかります。

 

3.明け渡しの催告

執行官は、借り主に対して、建物明け渡しの強制執行の申立がされてから原則2週間以内に、

・「借り主の占有を移転することを禁止すること」

・「催告の日から1か月を経過する日が明け渡しの期限であること」

・「明け渡しの期限までに占有を移転させた場合には、新たな占有者に対して強制執行を行うこと」

・「明け渡しの断行日」

・「借り主に引き渡せなかった動産について売却し処分することがあること」

を内容として、催告します。

この明け渡しの期限と明け渡しの断行期日とは日時が必ずしも一致するとは限りませんのでご注意ください。

この催告がされた後に借り主が違う人に建物を住まわせたりすることがあっても、その者に対しても明け渡しの強制執行を進めていくことになります。

催告期日には、執行官が実際に建物の所在場所に行って催告するので、借り主にプレッシャーを与えることになり、一般的にこの催告から断行期日までの間に借り主が任意に退去することが多いです。

 

4.明け渡しの断行

執行官、執行補助者、証人とともに建物所在地に赴き、建物内から家具等の動産の搬出を行い、借り主を退去させます。

妨害・抵抗がある場合には、施錠を破壊したり、連れ出したりするなどの必要限度で威力を用いて明け渡しを実現します。

 

Q:建物明け渡しの強制執行にあわせて動産執行の申立をしておいた方がよいですか?

A:滞納家賃を回収する見込みのあるような高価な動産がある場合には申し立てた方がよいです。

動産執行とは、借り主が所有する動産を差し押さえて、売却し、その売却代金を回収する手続です。

しかし、居住用の建物の場合、ほとんどの動産が差押え禁止動産と定められております。

具体例を挙げると、衣服、寝具、台所用品、畳、建具、66万円までの現金、タンス、洗濯機、冷蔵庫、 電子レンジ、ラジオ、テレビ(通常のサイズのもの)、掃除機、エアコンなどの動産は差し押さえて売却することはできません。

そのため、骨董品や宝石といった動産がある場合には動産執行の申立をする実益があります。

 

Q:借り主が動産執行で差押えすることのできない動産を残していった場合、どのようになりますか?

A:建物とは独立している物(目的外動産)は、執行官が取り除き、これを借り主やその親族に引き渡すことになります。これができない場合は、執行官により売却されます。

差押え禁止動産となっている物の中には、建物に附属している物(畳、建具など)と、建物とは独立している物(エアコン、冷蔵庫、テレビなど)に分けられます。

建物に附属している物については、もともと大家さんの所有物であることが多いことや、仮に借り主が入居後に付け加えたものであったとしても建物の一部とされ大家さんの物となることが多いため、建物明け渡しの強制執行手続き後に大家さんが処分を検討すればよいことになります。

一方、建物とは独立している物は目的外動産とも呼ばれ、建物明け渡しの強制執行手続の中で、執行官が取り除き、これを借り主やその親族に引き渡すことになります。

この引き渡しができない場合には、次のいずれかの手続により目的外動産を売却することになります。

① 執行官が明け渡し催告の際に目的外動産を確認し、明け渡しの断行期日に売却することを公告した上で明け渡しの断行期日に売却

② 執行官が明け渡しの断行期日に、公告なく即日売却(高価な動産は不可)

③ 執行官が目的外動産を保管し、明け渡しの断行期日から1週間未満の日を売却期日と指定して売却 

※③の場合、目的外動産の保管にかかる保管費用は大家さんの負担になりますので、建物の中で保管する旨の上申をあげておくとよいでしょう。

一般的に、借り主が残していった目的外動産は大家さんが買い取り、処分することになります。

売却代金は執行費用に充当されます。

 

Q:目的外動産の中に借り主以外の動産があった場合はどうしたらよいですか?

A:執行官により売却することができます。

 

次回は、障害をもつご家族のためにやっておいた方がよいことについて取り上げます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/minnjishintaku/85

 

いつもありがとうございます。

大家・借主が亡くなったら、滞納家賃はどうなる?

前回は、家賃滞納が発生した場合の対応について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/53

この記事では、借り主の家賃が滞納している間に、大家さんが亡くなってしまった場合あるいは借り主が亡くなってしまった場合に、今後の滞納家賃の回収手続はどのようにするべきなのか?について取り上げていきたいと思います。

この点、大家さんあるいは借り主が亡くなる前か後かで場合分けして考えることになります。

大家さんが亡くなってしまった場合は、

・亡くなる前の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

・亡くなった後の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

借り主が亡くなってしまった場合は、

・亡くなる前の滞納家賃は、借り主各相続人の相続分に応じて分割されます。

・亡くなった後の滞納家賃は、借り主の各相続人に対して、全額を請求できます。

(解説)

1.大家さんが亡くなる前の滞納家賃について

滞納家賃請求権は金銭債権であるので、大家さんが亡くなって相続人が複数いる場合には、各相続人の相続分に応じて分けることができます。

そのため、大家さんが亡くなる前の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

※なお、現金については、金銭債権ではなく、物として考えることになりますので、借り主の家賃の滞納がなく、大家さんが受け取っていた家賃を現金で保管していた場合には、その現金は相続人全員の共有財産となり、相続人全員は相続分に応じて権利を取得しているだけなので、相続分に応じた額を当然に取得するわけではないのでご注意ください。

2.大家さんが亡くなった後の滞納家賃について

建物明け渡し請求権は、相続人間で分けることの出来ない債権であることから、各相続人は共同賃貸人となります。

その結果、かつては、大家さんが亡くなった後の滞納家賃請求権についても、各相続人間で分けることの出来ない金銭債権と考えられていました。

しかし、平成17年9月8日の最高裁判所の判決で、大家さんが亡くなった後の滞納家賃請求権は、大家さんの遺産ではなく、各相続人の共有財産と解し、各相続人がその持分に応じて賃料債権を取得することになりました。

そのため、亡くなった後の滞納家賃は、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

3.借り主が亡くなる前の滞納家賃について

滞納家賃債務は金銭債務であるので、借り主が亡くなって相続人が複数いる場合には、各相続人の相続分に応じて分けることができます。

そのため、借り主が亡くなる前の滞納家賃は、借り主各相続人の相続分に応じて分割されます。

4.借り主が亡くなった後の滞納家賃について

建物明け渡し義務は、相続人間で分けることの出来ない義務であることから、各相続人は共同賃借人となります。

その結果、借り主の相続人全員は、相続分に応じて建物の一部分をそれぞれ明け渡すということはできず、全員が建物全体を明け渡す義務を負っていることになります。

借り主の相続人全員が共同賃借人である以上、借り主の相続人全員は共同して建物全体を利用することができ、その賃料も相続人全員が全額を支払わなければなりません。

つまり、借り主(Aさん)が亡くなって、相続人が奥さん(Bさん)、子(Cさん)、子(Dさん)であるなら、大家さんは、Bさん、Cさん、Dさんのいずれの方に対しても家賃全額を請求することができます。

そのため、貸し主が亡くなった後の滞納家賃は、借り主の各相続人に対して、全額を請求できます。

(まとめ)

 

B-01

Q:大家である父が亡くなる前に賃貸借契約を解除していたため、賃料相当損害金が発生しているのですが、これはどのような取り扱いになりますか?

A:大家さんが亡くなる前の賃料相当損害金は、滞納家賃と同様に、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

その他のパターンについては以下のとおりですので参考にしてください。

・大家さんが亡くなった後の賃料相当損害金については、大家さんの各相続人の相続分に応じて分割されます。

・借り主が亡くなった日までの賃料相当損害金は、相続開始の日までの借り主各相続人の相続分に応じて分割されます。

・借り主が亡くなった日の翌日から賃料相当損害金は、借り主の各相続人に対して、全額を請求できます。

※借り主の場合は亡くなった日とその翌日では取り扱いが違うので注意してください。

(まとめ)

 

B-02

Q:大家さんが亡くなった後、建物明け渡し請求は相続人全員で行う必要がありますか?

A:建物明け渡し請求は、分けることのできない債権ですので、相続人各自が行うことができます。

もっとも相続人全員で共同して行っていただいても大丈夫です。

ただし、建物明け渡し請求の前提となる契約解除の内容証明郵便については、各相続人のうち、持分価額の過半数を有している相続人から行うことが必要になりますので注意してください!

心配であれば、相続人全員の連名で内容証明郵便を出しておけばベストです。

なお、相続人全員で建物明け渡し請求を行う場合の、請求の趣旨の記載例を挙げておきます。

「1.被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

2.被告は、原告Aに対し、金★万★★★★円及び平成★★年★★月★★日から前項の建物明け渡し済みまで1か月★万円の割合による金員を支払え

3.被告は、原告Bに対し、金★万★★★★円及び平成★★年★★月★★日から前項の建物明け渡し済みまで1か月★万円の割合による金員を支払え

4.訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行を求める。」

などと記載することになります(大家さんの相続人が原告Aと原告Bの2人の場合)。

 

Q:借り主が亡くなった場合、契約解除の内容証明郵便は誰に送ればよいですか?

A:借り主の相続人全員に対して送る必要があります。

 

次回は、建物明け渡しの強制執行について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/76

いつもありがとうございます。

家賃滞納が発生した場合の対応について

前回は建物明け渡しの強制執行手続の準備について取り上げました。

その記事→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/36

大家さんは、借り主が家賃の支払いが遅れた場合に、速やかに家賃の支払いを催促することが多いと思います。

この記事では、家賃の滞納について催促する場合に大家さんが注意すべき事について取り上げます。

催促を行う場合に注意すべき行為の一例を挙げると、

・鍵の無断交換、荷物の無断搬出をしないこと

・催促の際に暴力的な態度、乱暴な言葉を使わないこと

・早朝や深夜などの時間帯に催促しないこと

・張り紙、立て看板等をたてて催促しないこと

・不必要に勤務先や保証人ではない親族へ催促しないこと

・多人数で、借り主や保証人の家に押しかけないこと

などです。

(解説)

1.鍵の無断交換、荷物の無断搬出をしないこと

日本の法律においては、権利者の自力救済を認めていません。仮に自力救済をしてしまった場合、その行為は法律に反する行為になってしまうため様々なペナルティを課せられることになってしまいます。

自分の所有する建物であったとしても、その建物を利用する権利は借り主にあるので、鍵の無断交換や、荷物の無断搬出を行うと、住居侵入や器物損壊といった刑事上の責任を負うことになることのほか、民事上においても損害賠償請求をされる可能性があります。

また、そのような行為を管理会社の方が行った場合には、その管理会社は法律違反行為をする会社と知らしめられ社会的評価を下げる結果につながります。

2.催促の際に暴力的な態度、乱暴な言葉を使わないこと

大家さんには家賃を回収する権利があります。しかし、この権利行使を楯になんでもやってよいかというとそういうことはありません。

家賃の支払い催促において借り主にプレッシャーを与えることは時には必要ですが、催促の際に暴力的な態度、乱暴な言葉を使うなど度が過ぎると恐喝罪となって刑事上の責任を追うことになります

そのような行為をして成立させた合意は、借り主の意思に基づくものではないとして合意が取り消される可能性もあります。

3.早朝や深夜などの時間帯に催促しないこと

一般的に、早朝や深夜は借り主は建物内で睡眠を取っていることが多いと考えられ、必要性も無くそのような時間帯に催促に行くことは、いくら家賃の回収という権利行使であっても平穏な生活を妨げる行為と評価される可能性があります。

4.張り紙、立て看板等をたてて催促しないこと

張り紙や立て看板をたてて催促することは、借り主以外の者に借り主が家賃を滞納していることを知らしめる結果となり、借り主の名誉を傷つける行為と評価される可能性があります。

5.不必要に勤務先や保証人ではない親族へ催促しないこと

催告をする方法について勤務先に催告する以外に執るべき手段があるなど、勤務先に催促する必要性も高くない場合に、借り主が勤めている勤務先に家賃滞納の事実を伝え間接的に催告することは、借り主以外の者に借り主が家賃を滞納していることを知らしめる結果となり、借り主の勤務先内での評価が下がるなど、借り主の名誉を傷つける行為と評価される可能性があります。

6.多人数で、借り主や保証人の家に押しかけないこと

多人数で家賃の支払いの催促をすることは、借り主にとって過度なプレッシャーを与えることになります。

そのような行為をして成立させた合意は、借り主の意思に基づくものではないとして合意が取り消される可能性もあります。

 

以上のようなことをすると、建物明け渡し請求の訴訟の中で、家賃滞納している借り主に交渉道具を与え、場合によっては契約解除が認められなくなる可能性も生じてきます。大家さんとしては法律の手続に従って家賃を回収する必要があるので、その方法が法律違反にならないようにしなければなりません。

そのため、その手段が法律に反していないか?社会一般的に妥当と言えるものかを意識して催告するように努めなければなりません。

Q:家賃の滞納があったので早急に口頭で催告はしたのですが、借り主は滞納している家賃をいっこうに払おうとしません。法律に反せず、妥当な方法で再度催告してみようと思いますが、どのようにしたらよいですか?

A:催告は口頭だけでなく書面でしていただいても構いません。また、催促して無視される場合に放っておくと許されていると考え始めるので、多少「しつこいな。」と思われるくらいの頻度で催促してください。

また、催告した記録は残しておいてください。催促の適正さを裏付ける証拠となります。

何度か催告しても応じない場合は内容証明郵便による方法で催促すると、大家さんの本気度を感じ、連絡をしてくる場合もあります。

いつもありがとうございます。

次回は、大家・借主が亡くなったら滞納家賃はどうなる?について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/62

カリスマ大家さんの鈴木ゆり子さんに会いました!

平成26年6月24日、25日に東京ビッグサイトにて行われました賃貸住宅フェア2014にてカリスマ大家さんの鈴木ゆり子さんに会いました。

鈴木ゆり子さん看板 鈴木ゆり子さん

鈴木ゆり子さんとは、埼玉県北部地域で空室率93%のボロ物件を利回り32%に変えたオバチャン大家さんです。→http://www.suzuyosi.org/yuriko/

私も鈴木ゆり子さんの書籍「専業主婦が年収1億のカリスマ大家さんに変わる方法」を読んだことがあるのですが、鈴木さんのすごいところは、

・仕事をしようとハローワークに行ったけれども、中卒だと仕事がないと言われたことをきっかけに、誰も雇ってくれないなら自分で仕事を始めようと大家業を始めたこと

・不動産屋さんに掘り出し物と勧められたアパートを購入したら、トイレが転がっているような部屋だったり、失敗もあったけれどもその失敗を糧に一つ一つ勉強して、逆に誰も買わないようなボロ物件をあえて購入して、自らの手で掃除、リフォームして高収益物件に変えたこと

・管理会社任せにせず、大家さん自らが借り主、近隣周辺の住民の方とコミュニケーションを取り、賃料滞納があっても良い関係を築いていること

などなど

中卒というハンデを乗り越え成功へ導いたそのモチベーションの高さがすごいなと驚かされます!

 

借り主目線の大家業

大家さんなのに借り主目線に立って、どういう物件だったら入居したいと思うかを考え、

・日が当たらず寒い部屋にはエアコンのみならずホットカーペットを用意してあげる。

・同じアパートの住人とコミュニケーションをとり、そのアパートの現場の声を聞いて、問題が大きくなる前に予防策を取っておく。

・実際に購入したアパートに住んでみて、現状を把握しておく。

・学生向きな物件なら事前にある程度の家具を用意してあげる

といった心配りも素晴らしいです!

私も大家業には大変興味があるので弟子入りしようかなと考えてしまいます(笑)

 

私自身勉強させられたこと

私のような法律専門職になると、「家賃滞納が続いていて催促しても応じてもらえていないんですね。そうしたら早めの解決に向けた法的手続に進みましょう。」と法的手段による解決を提案することが多いのですが、鈴木さんのように大家さんと借り主が良いコミュニケーションが出来ていると、そのような法的手段によらなくとも解決できることもあるんだなぁと考えさせられました。

確かに、どうしても法的手段による解決を図らなければならない場合もあります。ただ、お互いに相手の立場に立って物事を考えることができるような関係が築けているのであれば、そんな仰々しいことをする必要などないのかもしれません。

そして、裁判所は借主の保護を重きにおいた判断をしがちですので、私としては、契約段階において予防法務を提案して、なるべく裁判所の手続きを介することなく、円満解決ができるようなスキームを提案することが大家さんにとっても借主にとってもメリットにつながるのかなと感じました。

鈴木さんからは、大家さんの味方として、また、これから自ら大家業を行う者としての心構えを勉強させられたような気がします。

いつもありがとうございます。

建物明け渡しの強制執行手続の準備について

前回は、占有移転禁止の仮処分の目的と効果について取り上げました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/karisyobun/28

訴訟手続で建物明け渡し請求が認められ、勝訴判決がなされたり、あるいは、明け渡しを内容とする和解が成立したにもかかわらず、借り主が退去してくれない場合には、強制執行手続に進みます。

この記事では、強制執行手続を行うための事前準備としてどんなことをする必要があるの?について解説致します。

事前準備は次のことをする必要があります。

判決正本・和解調書正本・認諾調書正本・調停調書正本(これらは「債務名義」と呼ばれています。)について執行文の付与

②送達証明書(上記書類が借り主等の相手方に送達されたことを証明する書面です。)の取得

③現況の調査

(解説)

.判決正本・和解調書正本・認諾調書正本・調停調書正本について執行文の付与

執行文とは、判決正本等に書いてある内容が、強制執行手続によって実現できる効力があることを証明する文書です。

執行文付与の申立をして、裁判所書記官が判決正本等にその効力があると認めると、判決正本等の末尾に「執行文」という題名が書かれた書面がホッチキスでとめられます。執行文には、「債権者は、債務者に対し、この債務名義により強制執行することができる。」という内容が書かれています。

執行文は次の手順で付与されます。

(1)和解調書正本・認諾調書正本・調停調書正本の取得

訴訟手続において、判決が言い渡された場合には、判決正本が裁判所から送られてきますが、和解・認諾で終了した場合や、調停事件で調停が成立した場合には、「調書の正本を送達してください」と裁判所に申請しておく必要があります。

申請しなくても、調書の正本を送達してくれる裁判所が多いですが、送達してくれない場合には申請してください。

これらの調書の正本を取得する場合にも、本来書面1枚につき150円の収入印紙の手数料がかかるのですが、最初の一回目であれば正本交付手数料はかかりません。この申請により、相手方にも調書の正本を送達してくれます。なお、送達にかかる郵便切手の料金はかかります。

(2)執行文付与の申立

執行文付与の申立は、訴訟手続、調停手続を行った裁判所の裁判所書記官に対して書面で行います。

申立に際して、判決正本等の書面、手数料(執行文1通につき300円の収入印紙)を添付する必要があります。大家さんが会社の場合には、会社の登記事項証明書も添付しなければなりません。

(3)執行文の付与

申立を受けた裁判所書記官は、提出された判決正本等で強制執行手続を行うことができるかについて判断します。

建物明け渡しの訴訟の判決で、建物の明け渡しについて仮執行宣言(判決の不服申立の期間(被告に対する判決正本送達から2週間以内)が満了せずともすぐに強制執行手続をすることができる旨の裁判)がつくことはあまりありませんので、判決の場合には、被告に対する判決正本送達から2週間が経過して判決が確定していることが必要になる場合がありますのでご注意ください。

なお、和解・認諾・調停の場合には、このような不服申立ということがないのでこの点について考慮する必要はありません。

2.送達証明書の取得

送達証明書とは、判決正本等が相手方である借り主、保証人に届いていることを証明する書面です。

強制執行手続を行う以上、事前に相手方にどのような書面に基づいて強制執行が行われるかを知らせ、防御の機会を与える必要があるため、判決正本等がちゃんと送達されていることを確認する必要があるのです。

送達証明書は、訴訟手続、調停手続を行った裁判所の裁判所書記官に対して書面で交付申請を行います。

申請に際して、手数料(1通につき150円の収入印紙)を添付する必要があります。大家さんが会社の場合には、会社の登記事項証明書も添付しなければなりません。

また、一般的には申請書を2通提出して、うち1通に、「上記のとおり証明する。」などとゴム印が押され、証明者である裁判所書記官の名前と職印が押されて返ってきます。返ってきたものが証明書になります。

3.現況の調査

強制執行手続において、執行官が、借り主が建物を利用していること(借り主による占有)を認定する必要があります。この場合に借り主の利用が認められないと、強制執行手続が執行不能で終了したり、明け渡し期日(断行日)が延期される場合があります。

そのため、執行官は大家さんに借り主がどういった人であるのか?現在どのように建物を利用しているのか?について情報の提供を求めます。

例えば、

・表札は誰名義になっているか?

・電気・ガス・水道のメーターは動いているか?

・郵便受けに郵便はたまっていないか?

・借り主以外に住んでいる人はいないか?

・外観から見た建物の利用状況はどうなっているか?荷物で足の踏み場も無いような状況か?建物は増築等は施されていないか?

などなど。

執行官に、このような情報提供を行えるように準備しておくと、強制執行手続がスムーズに行われやすくなりますので、事前に調査しておくとよいでしょう。

Q:借り主との明け渡しに関する合意を公文書である公正証書によって作成することはできますか?

A:公正証書によって合意書を交わすとしても、建物明け渡しについては、強制執行手続を行うことができませんので作成しない方がよいかと思います。なお、未払賃料等の金銭請求に関する合意の部分については、「債務者が債務を履行しない時は、直ちに強制執行を受けても異義のない事を承諾する」という一文を入れることで、執行文が付与され強制執行手続を行うことができます。

Q:仮執行宣言がついていない判決に執行文の付与を求める場合、判決が確定したことを証明する証明書を取得する必要はありますか?

A:原則必要ありません。

 

次回は家賃滞納が発生した場合の対応について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/53

いつもありがとうございます。

占有移転禁止の仮処分の目的と効果

前回は建物明け渡し請求の管轄について取り上げさせていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/17

借り主が借りている建物を別の人に住まわせたりするおそれがある場合、交渉や訴訟の手続に入る前に占有移転禁止の仮処分という手続をします。

この記事では占有移転禁止の仮処分ってなに?どういう効果があるの?ということについて解説いたします。

占有移転禁止の仮処分とは、借り主が占有状態を維持するための手続です。

この手続をすることにより、借り主や借り主から占有を承継した占有者に対して強制執行手続により明け渡しを求めることができるようになります。

(解説)

1.占有とは?

占有とは、「自分のために」、「物理的に物を支配する」ことです。

わかりにくいと思いますので、建物の占有についていうなら、自分のために建物を利用すること」とイメージしてもらうとよいかと思います。

2.借り主の占有状態を維持する理由

訴訟手続をする場合に借り主を被告としますが、そのまま勝訴判決が出たとしても、その後に借り主が建物の占有を違う人に移すと、その勝訴判決をもって強制執行手続をすることができなくなってしまうのです。

そのため、借り主が建物の占有を移転することを禁止して、占有状態を維持(固定)しておく必要があります。

3.占有移転禁止の仮処分手続の効果

占有移転禁止の仮処分の決定が出た後、2週間以内に、執行官に占有移転禁止の仮処分の保全執行の申立をします。

保全執行は、建物に、「債務者(借り主のことです。)は、占有を移転することが禁止されている」、「債務者(借り主のことです。)の占有を解いて、執行官が保管中である。ただし、債務者(借り主のことです。)に限り、使用を許した。」などが記載されている公示書という書面を貼り付けます。この書面をはがすと刑罰を受けます。

この保全執行手続が終わった後に、

・保全執行後がされたことを知って新たに建物に占有し始めた者(借り主の占有と関係なく占有を開始した者)

・保全執行後に借り主から占有を承継した者(保全執行がされたことについて知っていたかどうかは関係ありません。)

がいたとしても、判決に基づいてその者に対して、明け渡しの強制執行手続をすることができるようになります。

この場合、判決には、承継執行文の付与が必要になります。

 Q:保全執行がされたことを知らずに建物を占有し始めた人に対しては占有移転禁止の仮処分の効果は及ばないんですか?

A:保全執行がされたことを知らずに建物を占有した場合には、「知りながら占有した者」と推定されますので、効果が及びます。

ただし、あくまでも推定ですので、その占有者から反論がされる可能性があります(執行文付与に対する異議の申し立て、あるいは、執行文付与に対する異議の訴え)。

Q:建物の中にいろんな人が出入りしているようで、占有者を把握することができません。できれば、借り主以外の方にも明け渡してほしいのですが、どうしたらよいですか?

A:占有者を特定することが困難とする特別の事情がある場合には、特定しないまま占有移転禁止の仮処分の申立をすることができます

ただし、仮処分決定が出て、保全執行の段階で占有者を特定できないと執行不能になり、仮処分の効果が生じませんので注意してください。

いつもありがとうございます。

次回は建物明け渡し請求の強制執行手続きの準備について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/36

建物明け渡し請求の管轄について

建物明け渡しの交渉がうまくいかなかった場合、裁判所で建物明け渡し訴訟手続を行います。

この記事では、どこの裁判所に訴状を出すかについて、解説いたします。

まず、どこの裁判所に訴状を出すべきかという問題に対する答えは

原則的には,建物明け渡しの訴訟を行う場合、借り主の住所を管轄する、地裁又は簡裁

となります。

(解説)

1 裁判所の訴訟手続の管轄(どこの裁判所が担当するか?)について

訴訟手続の管轄は大きく分けて

① 職分管轄

② 事物管轄

③ 土地管轄

の3つに分けることができます。

①職分管轄は、通常訴訟の第一審は簡裁又は地裁、少額訴訟は簡裁といった手続の性質に応じた管轄を意味します。

建物明け渡し訴訟の職分管轄は簡裁又は地裁になります。

②事物管轄は第一審の通常訴訟事件についての簡裁と地裁の分担に関する定めです。

訴訟の目的の価額が140万円を超えない事件は簡裁に、140万円を超える事件は地裁になります。

③土地管轄はどこの地域の裁判所が担当するかという問題です。

建物明け渡し請求の管轄について問題となるのは②事物管轄と③土地管轄についてです。

2 不動産に関する訴訟事件の事物管轄について

不動産の訴訟の目的の価額は、都税事務所・市役所等で発行している固定資産評価証明書に記載してある評価額を基準に判断します。

建物明け渡し訴訟の場合の訴訟の目的の価額の計算方法は、評価額×1/2で計算します。

(なお、不動産が土地の場合はさらに1/2をかけます(つまりトータルで1/4をかけます。))。  

計算の結果、算出された金額が、140万円を超えない場合、原則的には簡裁が第一審の管轄裁判所となります。

ただし、裁判所法の規定により、不動産に関する訴訟事件については、不動産の価額が140万円を超えない場合でも地裁を第一審として訴訟を提起することもできます。

そのため、第一審の管轄が競合し、地裁に提起しても簡裁に提起しても構いません。

また、このような規定から、第一審の管轄裁判所として簡裁を選択して訴えを提起した場合に、被告においても選択できるように被告には地裁への移送申立権があります。

この申立があると、訴訟事件は必要的に地裁に移送され、以後は地裁にて審理されます。 もっとも、被告が、この訴訟手続の内容について反論することで申立権を失います。

3 不動産に関する訴訟事件の土地管轄について

訴訟手続は、原則的には,被告の住所地を管轄する裁判所に提起します。

そのため、建物明け渡しの訴訟手続であれば、被告となる借り主、保証人の住所地を管轄する裁判所ということになります。

借り主、保証人の住所地を管轄する裁判所、異なる場合は、そのいずれか一つを選択して訴えを提起していただければよいです。

Q:借り主が行方不明の場合はどこの裁判所に訴訟を起こしたらよいですか?

A:この場合は、借り主の最後の住所地を管轄する裁判所に訴訟を起こしてください。

なお、不動産に関する訴訟一般に言えることですが、借り主、保証人の住所地に限らず、不動産の所在地を管轄する裁判所においても提起することができます。

Q:私(貸し主)の住所地を管轄する裁判所でできませんか?

A:この点については、①合意書面により貸し主の住所を管轄する裁判所で行うという取り決めがなされている場合(合意管轄)、②建物明け渡しのほかに未払賃料支払い請求をする場合(義務履行地管轄)にはできる場合があります。

①合意管轄が有効となるには?

  • 第一審の訴えに関する合意であること
  • 「本件賃貸借契約に関するあらゆる紛争について」といった特定された範囲のものであること
  • 書面で合意していること
  • 裁判を起こす前に合意していること

が要件になります。

②義務履行地管轄について

義務履行地管轄が認められるためには、家賃の支払場所をどこにしているかによって決まります。

  • 取り決めがない場合→貸し主の住所地に管轄あり
  • 「貸し主の住所において現金支払い」の場合→貸し主の住所地に管轄あり
  • 「借り主の住所において現金支払い」の場合→貸し主の住所地に管轄なし

理論上は、上記のとおりなのですが、強制執行手続は不動産の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して申立をするので、借り主住所あるいは不動産所在地を管轄する裁判所に訴訟を提起するのがよいと思われます。

※ なお、振り込みの場合は、振り込みをした時点で賃料支払い義務を終了させたとして、振込先の口座のある金融機関の営業所所在地を管轄する裁判所に管轄はないという裁判例があります。

いつもありがとうございます。

次回は、占有移転禁止の仮処分の目的と効果について取り上げたいと思います。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/karisyobun/28