前回は建物明け渡し請求の管轄について取り上げさせていただきました。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/17
借り主が借りている建物を別の人に住まわせたりするおそれがある場合、交渉や訴訟の手続に入る前に占有移転禁止の仮処分という手続をします。
この記事では占有移転禁止の仮処分ってなに?どういう効果があるの?ということについて解説いたします。
占有移転禁止の仮処分とは、借り主が占有状態を維持するための手続です。
この手続をすることにより、借り主や借り主から占有を承継した占有者に対して強制執行手続により明け渡しを求めることができるようになります。
(解説)
1.占有とは?
占有とは、「自分のために」、「物理的に物を支配する」ことです。
わかりにくいと思いますので、建物の占有についていうなら、「自分のために建物を利用すること」とイメージしてもらうとよいかと思います。
2.借り主の占有状態を維持する理由
訴訟手続をする場合に借り主を被告としますが、そのまま勝訴判決が出たとしても、その後に借り主が建物の占有を違う人に移すと、その勝訴判決をもって強制執行手続をすることができなくなってしまうのです。
そのため、借り主が建物の占有を移転することを禁止して、占有状態を維持(固定)しておく必要があります。
3.占有移転禁止の仮処分手続の効果
占有移転禁止の仮処分の決定が出た後、2週間以内に、執行官に占有移転禁止の仮処分の保全執行の申立をします。
保全執行は、建物に、「債務者(借り主のことです。)は、占有を移転することが禁止されている」、「債務者(借り主のことです。)の占有を解いて、執行官が保管中である。ただし、債務者(借り主のことです。)に限り、使用を許した。」などが記載されている公示書という書面を貼り付けます。この書面をはがすと刑罰を受けます。
この保全執行手続が終わった後に、
・保全執行後がされたことを知って新たに建物に占有し始めた者(借り主の占有と関係なく占有を開始した者)
・保全執行後に借り主から占有を承継した者(保全執行がされたことについて知っていたかどうかは関係ありません。)
がいたとしても、判決に基づいてその者に対して、明け渡しの強制執行手続をすることができるようになります。
この場合、判決には、承継執行文の付与が必要になります。
Q:保全執行がされたことを知らずに建物を占有し始めた人に対しては占有移転禁止の仮処分の効果は及ばないんですか?
A:保全執行がされたことを知らずに建物を占有した場合には、「知りながら占有した者」と推定されますので、効果が及びます。
ただし、あくまでも推定ですので、その占有者から反論がされる可能性があります(執行文付与に対する異議の申し立て、あるいは、執行文付与に対する異議の訴え)。
Q:建物の中にいろんな人が出入りしているようで、占有者を把握することができません。できれば、借り主以外の方にも明け渡してほしいのですが、どうしたらよいですか?
A:占有者を特定することが困難とする特別の事情がある場合には、特定しないまま占有移転禁止の仮処分の申立をすることができます。
ただし、仮処分決定が出て、保全執行の段階で占有者を特定できないと執行不能になり、仮処分の効果が生じませんので注意してください。
いつもありがとうございます。
次回は建物明け渡し請求の強制執行手続きの準備について取り上げたいと思います。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/36