賃借人が家賃を滞納した場合、まずは賃借人に賃料を督促したり明渡を求めるかと思います。
応じてくれないときには、次は連帯保証人に接触して請求しますが、賃借人に要求したことと同じ事を請求できるわけではありません。
この記事では、連帯保証人に対して、
・「何」について請求できる?
・「いくらまで」請求できる?
という、連帯保証人の責任の範囲について取り上げます。
1 「何」について請求できる?
賃貸借契約書や保証契約書では、
といった条項が定めてあります。
このような条項ですと、賃貸人は賃借人に対する債務であれば何でも連帯保証人に請求してよいと考えてしまうかもしれませんが、性質上、連帯保証人に請求できないものがあります。
(1)請求できること
保証に関する条項の文言が前述したような
「賃貸借契約から生ずる一切の債務」
といった一般的な定めであれば、金銭債務については保証の範囲に含まれます。
例えば、次のような賃借人への債権を保証債務の履行として請求できます。
- 賃料請求
- 遅延損害金
- 賃料相当損害金
- 原状回復費用
- 更新料
基本的には金銭債務についてはほとんど保証の範囲に含まれますが、例外的に以下の場合には範囲から外れて請求できません。
- 契約条項において、保証対象を限定している場合(「保証範囲は賃料・原状回復費用に限る。」など)
- 後述する(2)イに該当する賃料相当損害金
(2)請求できないこと
連帯保証人に対して請求できないものとしては次の例が挙げられます。
- 建物明け渡し請求
- 強制執行を怠って増大させた賃料相当損害金
ア 建物明け渡し請求
建物の明け渡しは、建物を実際に使用している賃借人だけが義務を負っているため、連帯保証人が代わりに明け渡すことはできません(大阪地判昭和51年3月12日)。
仮に契約書の中に、
「賃借人が建物内に残置した動産があるときはその処分、建物明け渡しに関する一切の権限を連帯保証人に委任する。」
という条項があったとしても、その合意自体が一方的に賃借人に不利な条項として無効になる可能性があります。
この条項を根拠に、連帯保証人の承諾を得て借り主の残置動産を処分したり、建物明け渡しを実行してしまうと、賃借人から損害賠償請求を受ける可能性があります。
イ 強制執行を怠って増大させた賃料相当損害金
訴訟等の法的手続により、賃借人に対する明渡しの給付条項が盛り込まれた債務名義(判決、和解等)が作成されている場合に、賃借人が任意の明渡をしない場合には、明渡の強制執行手続に進むことができます。
一般的にそのような債務名義には、明渡しまでの賃料相当損害金の支払に関する定めも盛り込まれていることが多いです。
このような場合に、明渡までに随時発生する賃料相当損害金を連帯保証人に請求すれば支払ってくれるので、賃貸人はあえて明渡の強制執行手続を行わず、そのまま賃借人に占有させ続けるとします。
連帯保証人からすれば、一日でも早く明渡の強制執行手続に着手してもらい明渡を実現させて、賃料相当損害金の責任から免れたいと考えます。
連帯保証人は、賃借人の滞納状況を知った時点で将来の保証債務に対する責任を負わない旨の意思表示(保証契約解除の意思表示)をすることで、連帯保証人の責任を免れる場合があります(大判昭和8年4月6日判決、東京地裁昭和51年7月16日判決)。
2 いくらまで請求できる?
(1)極度額まで
以前は賃貸借契約から生じる一切の金銭債務は、予期できる範囲内の債務として、保証債務の支払義務を免れることはできませんでした。
そのため、連帯保証人はいくらまで責任を負わなければならないのかが事前に把握することができず、不安定な立場に置かれていました。
そのような状態を解消するため、民法が改正され、保証人が個人の場合には、令和2年4月1日以降に締結された保証契約においては極度額を定めなければ、保証契約が無効になりました。
極度額とは、連帯保証人が責任を負う金額の「上限」のことです。
例えば、契約書に「極度額 300万円」と書いてあれば、滞納家賃や修理代がどれだけ膨らんでも、連帯保証人が払う責任は合計300万円までで打ち止めです。
したがって、連帯保証人に対しては、
- 令和2年3月31日までに締結した保証契約であれば、賃貸借契約から生じる一切の金銭債務(上限なし・旧法適用)
- 令和2年4月1日以降に締結した保証契約であれば、極度額まで(上限あり・新法適用)
を請求することができます。
令和2年3月31日までに締結した保証契約を令和2年4月1日以降に更新した場合は、従前の保証契約の内容が継続されるので、旧法が適用され極度額の定めは要件とはなりません。
(2)保証人が個人の場合と法人の場合の違い
ア 保証人が個人の場合
2(1)で前述したとおり、保証人が個人の場合は、極度額を定めなければ保証契約が無効になります。
イ 保証人が法人の場合
現代では、法人の保証会社が賃貸借契約の保証人になる場合が多いです。いわゆる保証会社です。
保証会社は、賃貸人との間で保証契約を締結し、賃借人との間で保証委託契約を締結します。
保証人が法人の場合、極度額の定めは契約成立の要件とはなっていませんが、保証債務履行後の将来の求償権について個人の連帯保証人をつけるのであれば、当初の保証契約に極度額の定めがなければ、求償債権についての保証契約は無効となります(改正民法465条の5第1項)。
(3)極度額は固定額であること
極度額は「100万円まで」とか、「賃貸借契約時の家賃の10か月分」など固定額である必要があります。
「ただし、賃料が増額されたときは、増額後の家賃の10か月分」といった約束をすると固定額ではなくなってしまうので無効となる可能性があります。
なお、極度額に上限はありません。
(4)元本の確定事由
極度額を定めた保証契約を締結したとしても、次の場合は、主たる債務の元本が確定し、確定額以上に保証人が保証債務を負うことにはなりません(改正民法465条の4)。
- 保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申立て、その手続の開始があったとき
- 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき(賃借人が破産手続開始決定を受けても元本は確定しません。)
- 主債務者の死亡又は保証人の死亡
3 まとめ
連帯保証人には、基本的には以下の金銭債務の保証債務の履行を請求できます。
- 賃料請求
- 遅延損害金
- 賃料相当損害金(一部例外あり)
- 原状回復費用
- 更新料
金額としては、
- 令和2年3月31日までに締結した保証契約であれば、賃貸借契約から生じる一切の金銭債務(上限なし・旧法適用)
- 令和2年4月1日以降に締結した保証契約であれば、極度額まで(上限あり・新法適用)
まで請求できます。
連帯保証人に接触するタイミングや請求方法と応じないときの対応についてはこちらの記事を参考にしてください。
