前回は、無断転貸・無断譲渡による賃貸借契約の解除について説明させていただきました。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/146
今回は、特約違反による賃貸借契約の解除、特にペット飼育禁止特約の条項がある場合に、その特約に違反して賃貸借契約を解除する場合について取り上げていきます。
一般的に建物の賃貸借契約を締結した場合、大家さんには次のような義務が課せられます。
・借り主に建物を使用収益させる義務
・建物を借り主に使用収益に必要な修繕をする義務
・借り主が、屋根のふき替えや塗り替えなど、本来大家さんが負担すべき費用を支出したときは、その費用額を返還する義務
一方、借り主は、次のような義務が課せられます。
・家賃支払義務
・建物の保管についての善良な管理者の注意義務
・賃貸借契約が終了した場合には、建物の返還義務(明け渡し)
・無断転貸・無断譲渡の禁止
そして、この基本的な賃貸借契約の内容に加えて、大家さんと借り主の間で特約を設けることがあります。「家賃の支払を何ヶ月分怠ったら、催告することなく、賃貸借契約を解除する。」という内容の無催告解除特約などがその例の一つになります。
実務上よくある特約としては、「賃借家屋内において、犬、猫等の動物類を飼育してはならない。これに違反した場合、賃貸人は賃貸借契約を解除する。」というペット飼育禁止特約が挙げられます。そしてよく問題となるのが、ペット飼育禁止の特約を設けていたにもかかわらず、それを破って建物内でペットを飼っていた場合です。
この記事では、ペット飼育禁止の特約について借り主が守らなかった場合における賃貸借契約の解除の注意点について取り上げていきたいと思います。
1.そもそもペット飼育禁止特約は有効?
この特約が、借り主に不利な特約として、借地借家法30条に該当して無効となるのではないかという問題がありますが、裁判例においては、このペット飼育禁止特約は有効としています。
その理由としては、共同住宅においては、鳴き声、排泄物、におい、毛等により建物に損害を与えるおそれがあるほか、同一住宅の居住者に対し迷惑又は損害を与えるおそれがあるためです。
2.ペット飼育禁止特約違反の事実だけで賃貸借契約を解除することは可能?
裁判例においては、5年近く居室内に犬を飼っていたが、隣室等に注意を払って飼育し、特に苦情もでていなかったという事案においては特約違反の事実だけで解除を有効としています(東京地裁平成7年7月12日判決)。
ただし、多くの裁判例は特約違反の事実のみならず、他の要素も踏まえて、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されていることを理由に解除を有効と認めていますので、他の解除原因と同様に、信頼関係が破壊されたという事情がある方が解除を有効なものと評価される可能性が高いということができます。
例えば、マンションの賃貸借契約において、特約として「犬猫等の家畜を飼育してはならない」と定めたにも関わらず、その特約に違反して猫を飼育していた場合においては、特約自体は、猫の飼育により傷・排泄物等で室内が不衛生となり、また、転居時に棄てられることで野良猫化し近隣の環境を悪化させることになること等を踏まえて有効としました。
さらに借り主が、その特約に違反して居室で猫を飼育し、マンション敷地内で野良猫に餌を与えていたことや、賃貸借契約書の特約部分を塗りつぶし、猫の飼育について承諾を得たかのような工作をしていたという事情も考慮して、信頼関係が破壊されているとして、解除を有効としています。(東京地裁昭和58年1月28日判決)
3.ペット飼育禁止特約を設けていなかった場合は、建物内でペットを飼っていたことを理由に解除することはできない?
ペット飼育禁止特約がない場合には、通常の飼育方法の範囲内なら飼育は許されていることになります。
そのため、その飼育方法により、建物が損害を被り、近隣住民にも迷惑をかけるなど、通常の飼育方法の範囲を超えてしまった場合は用法違反の要素も加味して信頼関係が破壊されているとして賃貸借契約を解除することができるということができます。
裁判例においても、ペット飼育禁止特約がない場合においても、用法違反、信頼関係破壊を理由に賃貸借契約の解除を有効と認めているものもあります。
次回は、解約申し入れによる賃貸借契約の終了について取り上げていきます。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/152
いつもありがとうございます。