無断増改築による賃貸借契約の解除

前回は、用法遵守義務違反による賃貸借契約の解除について説明させていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/142

今回は、無断増改築による賃貸借契約の解除について取り上げていきます。

借り主(賃借人)は、賃借物(土地・建物)を大家さん(賃貸人)に返還するまでは、善良な管理者の注意(他人の物を利用するという立場であることから要求される注意義務)をもってその物を保管しなければなりません。そのような注意義務が課されているにもかかわらず、無断で増改築をしたときは、賃貸借契約の債務不履行となり、賃貸借契約の解除の原因となる可能性があります。

一般的に無断増改築を原因として賃貸借契約を解除する場合、大家さん賃貸人)は相当の期間を定めて原状回復するように催告し、その期間を経過してもなお原状回復をしないときは、契約解除の意思表示(内容証明郵便による。)をします。

特に無断増改築による解除が問題となるのは、建物所有を目的とする借地契約において、増改築禁止の特約があるにも関わらず無断で増改築が行われた場合です。

このような特約自体は、合意による使用収益兼の制限であって借地借家法9条、借地法11条の契約条件に該当しないため有効としつつも、これにより土地の通常の利用が不当に拘束され、又は妨げられるなどの一定の条件の下においては、特約に基づく解除権の行使ができません。

この記事では、どのような場合に無断増改築を理由として契約を解除することができるのかということについて取り上げていきます。

その一般的な結論としては、用法遵守義務違反における解除の場合と同様に、無断増改築行為によって大家さん(賃貸人)と借り主(賃借人)の信頼関係が破壊されている場合に解除することができます。

(解説)

それでは、どのような場合に大家さんと借り主の信頼関係が破壊されていると認められるかについて、判例の具体的事案を挙げながら説明します。

 

1.居宅をアパートに改造するため増改築した場合

(事案)

建物所有を目的とする借地契約を締結した際に、建物を増改築するときは賃貸人の承諾を受けること及びこれに違反した場合には催告なしに解除することができる旨の特約(無断増改築禁止特約)を設けていた。賃借人はこの特約に反し、居宅(木造瓦葺2階建)の玄関部分を除く根太・柱を取り替え、2階を取り壊し、その2階に5室の小部屋を増築して、アパートにした。

土地の賃借人は、無断増改築を理由に契約解除の意思表示をした。

(結論)

裁判所は、この無断増改築禁止特約自体は有効とした上で、さらに、「増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、前期特約に基づき解除することは許されない。」しました。

本事案においては、増改築はしたものの住居用普通建物としては、居宅もアパートも同一であることを理由に、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないとして、解除は効力を生じないと判断しました。

2.居宅をバー店舗に改築した場合

(事案)

無断増改築禁止特約に違反し、借地上の居宅(15坪5合)中、9坪5合をバー店舗に改築した。

(結論)

賃借人の無断増改築行為を土地賃貸借関係の継続を著しく困難にする不信行為として、賃貸借契約について解除をすることができると判断しました。

3.まとめ

判例は、単に無断増改築があっても、信頼関係破壊まで至っているとして賃貸借契約の解除を認めるケースは少ないため、無断増改築の事実のみならず、その増改築の程度、原状回復の可能性、その他の解除原因(用法違反等)の有無、賃貸借契約期間の経過等を踏まえて、全体的に信頼関係が破壊されていると認定される必要があるといえます。

特に建物所有を目的とする土地の賃貸借については、建物自体は賃借人の所有物であり、賃借人の所有物について賃借人が手を加えることは本来賃借人の自由なので、それを踏まえた上でも今後も賃貸借契約を継続することができない程度の賃借人の不信行為があると認められる必要があります。

 

次回は、無断転貸・無断譲渡による賃貸借契約の解除について取り上げていきます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/146

いつもありがとうございます。