用法遵守義務違反による賃貸借契約の解除

前回は家賃滞納による賃貸借契約の解除について説明させていただきました。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/137

今回は、用法遵守義務違反による賃貸借契約の解除について説明します。

借り主は、賃貸借契約または賃借物の性質によって定められた用法に従って、建物を利用しなければなりません。そのため、居宅として借りているのに別の目的のために利用している場合は用法遵守義務違反となり、賃貸借契約の解除の原因となる可能性があります。

用法遵守義務違反を原因として賃貸借契約を解除する場合、大家さんは相当の期間を定めて利用方法を改めるように催告し、その期間を経過してもなお改めないときは、契約解除の意思表示(内容証明郵便による。)をして建物明け渡し請求をします。

この記事では、どのような場合に用法遵守義務違反として契約を解除することができるのかということについて取り上げていきます。

まず、その一般的な結論としては、借り主の用法遵守義務違反行為により大家さんと借り主の信頼関係が破壊されている場合に解除することができます。

(解説)

それでは、どのような場合に大家さんと借り主の信頼関係が破壊されていると認められるかについて、判例を元に具体的事案を挙げながら説明します。

1.居住目的の一室を学習塾として使用した場合

(事案)

比較的少人数の家族が住居として使用することを予定していた建物において、契約後まもなく借り主がその建物の一部屋(6畳間)において学習塾を始めることとなった。その学習塾は、最大45名の生徒を月曜日から土曜日まで4名の教師で教えることを予定していたが、実際の生徒数は6名程度に過ぎなかった。また、借り主は、じゅうたんを敷いて建物が傷めないように配慮していた。

大家さんは、用法遵守義務違反を理由に学習塾開設から2か月で契約解除の通知を出した。

(結果)

当初予定していた内容の学習塾を経営していたとすれば、建物の利用形態が変わり建物を傷める程度も高くなるため、用法違反として評価されてもやむを得ないが、実際には生徒数は6名程度であったこと、借り主がじゅうたんを敷いて建物が傷めないように配慮していたことから、そのような利用形態ではそもそも用法違反とはいえないと判断しました。

また、大家さんは、学習塾開設の説明会の開催等に対する大家さんの中止要請に対する借り主の態度や合意解除交渉における借り主の不当要求があったことを理由に信頼関係が破壊されていると主張しましたが、借り主がそのような態度をとった原因は大家さん側にもあり、現在借り主が学習塾をやめて住居として使用していることなどの諸事情を踏まえて、信頼関係が破壊されていると認めらないと判断しました。

以上により、解除を有効と認めませんでした。

2.使用目的を飲食業として貸した賃貸ビルの店舗において、金融業を営んだ場合

(事案)

契約当初は、使用目的を「飲食業」としていたが、その後目的を「飲食業兼金融業」に変更したい旨の申し出があった。建物は既に飲食店から事務所に改装工事されており、さらに暴力団関係者も出入りして、借り主と一緒に会社組織として金融業を営むと聞かされていたことから大家さんは変更申し出に反対した。

その後、大家さんは、用法遵守義務違反及び信頼関係破壊を理由として契約解除の通知を出した。

(結果)

使用目的を無断で変えることにつき、「賃貸ビルの店舗の賃貸借契約においては、店舗の営業目的は、他の店舗賃借人の営業との関係や賃料の確保の点から見て、賃貸人にとって重要な事項と解されるから、業種指定の特約に明白に違反する営業を賃借人が行った場合は、特段の事情がある場合を除き債務不履行として解除事由に当たると解される」と判断し、また、大家さんが使用目的の変更申出について反対していたこと、暴力団関係者が関与していたことなどから信頼関係の破壊を認め、解除を有効として、建物の明け渡しの判決が言い渡されました。

3.まとめ

用法違反として賃貸借契約の解除をする場合には、単に用法違反をしたということにとどまらず、事案の全体(用法違反当時の状況、現在の状況など)を通して、用法違反の程度が重く、かつ、今後において賃貸借契約を継続することができない(信頼関係の破壊)と認められる程度の事情が必要になるということができます。

 

次回は、無断増改築による賃貸借契約の解除について取り上げていきます。

その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/akewatashi/144

いつもありがとうございます。