前回は、動産執行の申し立てについてご説明させていただきました。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/kyouseisikkou/243
借り主の家賃滞納が続いている場合に、その滞納状態を放置しておくと消滅時効にかかってしまい、滞納した家賃を請求することができなくなってしまいます。
この記事では、家賃の時効はいつから何年間なのか?時効を中断するためにはどうしたらよいのか?について取り上げていきたいと思います。
家賃の時効は、賃料支払時期から5年間です。
時効期間を中断させるためには、次の方法を採る必要があります。
① 訴訟、調停等を起こす。
② 差押あるいは仮差押の申し立てをする。
③ 承認(借り主に念書等で滞納家賃の支払い義務があることを認めてもらう。)
(解説)
1.時効期間について
(1)時効期間の開始時期(起算点)について
消滅時効は、権利を行使することについて、法律上の障害がなくなったときが起算点となります。
例えば、賃料の支払時期を「当月分を当月末日払い」と定めている場合などは、8月であれば8月31日24時00分までは期限という法律上の障害がついているので時効期間は開始していません。この場合は9月1日午前0時00分が到来することで時効期間が開始します。したがって、9月1日が時効の起算点となります(8月31日24時00分と9月1日午前0時00分は実質的には同じですが、厳密には違います。)。
「翌月分を当月末日払い」と定めているような場合は、8月分の家賃であれば、8月1日午前0時00分が起算点となります。
なお、賃貸借契約について特に賃料支払時期を明確に取り決めていなかった場合は、「当月分を当月末日払い」となることが法律で定められていますので、翌月1日が起算点になります。
(2)時効期間について
家賃は毎月定期的に発生しますので、通常の時効期間である10年間より短い5年間になります。
家賃は各月ごとに起算点が異なりますので、時効期間満了日は別々になります。
2.時効の中断について
時効を中断、つまりこれまで経過した時効期間をゼロに戻すためには、前述したとおり、
① 訴訟、調停等を起こす。
② 差押あるいは仮差押の申し立てをする。
③ 承認(借り主に念書等で滞納家賃の支払い義務があることを認めてもらう。)
という方法を採らないといけません。
家賃滞納者に、支払を督促するために内容証明郵便を送る大家さんがいらっしゃいますが、その督促だけでは時効は止まりません。その内容証明郵便が到達してから6か月以内に訴訟、調停等の申し立てをすることで、内容証明郵便が到着したときを起算点として時効の効力が生じます。
そのため、内容証明郵便を出したからといって安心はできないのです。
Q:借り主に滞納している家賃の支払いを認めてもらうために念書を書いてもらうことを要求したのですが、書いてもらうことができません。ただし、滞納している家賃の一部を支払ってくれました。それでもまだ滞納家賃は残っています。この場合、残っている家賃については承認して時効期間は中断されたのでしょうか?
A:中断されたとは言いがたいです。
一度発生した一つの債権を時期をずらして分割して支払うのであれば、一部支払であっても全体について承認したものとして時効が中断されますが、家賃債権は毎月定期的に発生するものであることから、一部支払により先に発生している古い滞納家賃に充当されるだけでその余の滞納家賃については、承認による中断の効力が生じているとまでは言えません。
もっとも、借り主が全体の滞納家賃を認めた上で、一部支払をしたのであれば、残りの滞納家賃についても承認されたものとして時効が中断します。
Q:借り主が行方不明のため、保証人に滞納家賃を承認してもらいました。この場合、借り主に対する時効期間も中断しているのでしょうか?
A:借り主に対する時効は中断していません。
保証人が承認したのは滞納家賃の保証債務について承認したのであり、保証人は借り主の滞納家賃債務自体を承認することはできないことから借り主に対する時効は中断となっていません。
このまま、借り主に対する滞納家賃債務が消滅時効にかかってしまった場合、保証人が途中で保証債務について承認したとしても、主たる滞納家賃債務の消滅と同時に保証債務も消滅してしまうため保証人にも請求できなくなってしまいます。
このような場合は、訴訟手続に進むのがよいと考えられます。
次回は、敷金の滞納家賃への充当について取り上げたいと思います。
その記事はこちら→https://k-legal-office.com/blog/yachintainou/254
いつもありがとうございます。